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為末大氏×高桑早生氏対談 後編-2

――障害者スポーツを行政、自治体はどのようにサポートしていくべきか

高桑
 健常者の陸上の世界だったら、「男子の短距離はどこが強いの?」って言ったら、やっぱり「ジャマイカ」とかっていうのがあると思うんですけど、パラリンピックの世界は、特に陸上競技はやっぱりお金を持っている国が強いんですね。多分、障害者に対する練習環境の整備だったりとか、道具の援助だとか、そういうものが進んでいる国っていうのは、選手も出てくるし、どんどん強くなっていっていますね。そういう物を与えることができなくても、やっぱり強化していこうっていう思いがある国も最近出てきて。今回の仁川(インチョン)アジア大会でも感じたんですけど、そういう面で国単位でサポートしていっているなというのは海外の強くなっている国だったり、強い国だったりというのはすごく感じますね。日本もむしろそういう風にしていかないと、パラリンピックの4年間って、健常者のオリンピックの4年間より、成長が著しいんですね。4年前の記録じゃ絶対勝てないというところがあって。多分、ロンドンでやっと日本はそれに気づいたところがあるので。ここから急ピッチで頑張っていかないといけないかなと思いますね。
為末
 ひとつは高桑さんの話に付け足すと、パラリンピックは傷痍(しょうい)軍人のために行われた側面が海外だとかなり強いんですね。そうすると、軍隊がある国、戦争に行く国は、比較的パラリンピアンが多くなるんですね。さらにそこに退役軍人のための予算がつくんで、結構不利な条件で日本のパラリンピアンは戦っている。まず、数がそんなに多くない。病気か先天性のものかケガ。あとはそこに対する予算っていうのも、軍の予算っていうのは巨大な予算からアメリカは出ていますから。ひとつはやはり予算だと思いますよ。サポート体制をちゃんとつくるっていうのもひとつあるというのと、あとはパラリンピアンたちの競技環境っていうのは、本当にようやく最近なんじゃないかと思うんですけど、グラウンドを使うことだったりとか、そもそも違う場所で練習していたりというのを一緒にしていくという。ハード面が1年では解決されないとちょっと遅いと思うんですけど、この1年で日本中の競技場で、ハード面ではルール上はですね。管理している人の意識とかもあるし、もうちょっと時間かかると思うんですけど。とにかくルールでまず変わっていかないといけない。その次は指導者の問題とか、それから海外に遠征したいというアスリートだったり、もしくは進学をしたいとかね、海外のチームに入りたいとか。そういうものへのサポートっていうのは、多分パラリンピックの方では、なかなか体制が整っていないところもあったりするので、そこはオリンピックの方の情報とか知見を引っ張ってきて、JOCの方ですね。そこからやっていくという。要は融合していって、使えるものは使ってパラリンピックを強化していくのが重要じゃないかなと思いますね。

――チャレスポ参加者へ伝えたいこと

為末
 やっぱりスポーツをする楽しさと、将来スポーツをやらなくてもいいんだけども、スポーツの中から自信が得られるとか、そういうものはすごく大きいんじゃないかと思うんですね。それを感じに来てほしいなと。それでこの後、スポーツをやらないくてもいいんですけど、なんか触れて何かを感じて帰ってほしいなと思いますね。あとは障害がある人もない人も、本当にこの意識をどう変えるか。ロンドンで感じた一番大きいことは、段差をなくさなくても、車いすを持ち上げればいいじゃないかという、あそこを解決しちゃうと、実は多くのバリアフリーじゃない状況の問題って解決されると思うんですよね。こういうイベントはそういう可能性をはらんでいるんじゃないかと思いますね。
高桑
 私もスポーツは楽しいよ、ということですね。障害のある人でも、できないことって意外となかったりするんですよね。障害の程度にもよるんですけど、その範囲内でできることってちっとも少なくないんですね。挑戦していってほしいなと思いますね。今まで走ったことがなかった人が走ってみたりだとか、そういう「挑戦」っていうのを体験、体感してほしいなと思います。「挑戦」って言うと固いですけど、まず「やってみる」。ダメだったらやらなくていいと思うので、それぐらいの気持ちでスポーツに最初は触れていいんじゃないかと思います。
為末
 すなわち挑戦って、バーンって夢を掲げて挑戦というより、「やってみなはれ」というのが最初だと思うんですよね。三日坊主を恐れないというね(笑い)。

○…対談後に為末氏と高桑氏は「TOKYO障スポ・ナビ」をタブレット端末で使用した。「障スポ・ナビ」は都内の公共スポーツ施設のバリアフリー情報や、スポーツ教室の開催情報等、障害者のスポーツに関する様々な情報を掲載しているポータルサイトだ。為末氏は「へー知らなかった。スポーツ施設がわかるんですね」と興味津々だった。「チャレスポ!TOKYO」のイベント当日は参加者にタブレット端末で「障スポ・ナビ」を案内する。
詳しくはhttp://tokyo-shospo-navi.info/

  • 【プロフィル】
◆為末大(ためすえ・だい)
 1978年(昭53)5月3日、広島市生まれ。広島皆実高―法大。男子400メートル障害で世界選手権2度(01年、05年)銅メダル。五輪は00年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続出場。現在は社会イベントを主宰する傍ら講演活動、執筆業、テレビのコメンテーターなどマルチな才能を発揮。爲末大学の公式サイトは、http://tamesue.jp/
◆高桑早生(たかくわ・さき)
 1992年(平4)5月26日、埼玉県・深谷市生まれ。小学6年時に骨肉腫を発症し、中学1年時に左足膝下を切断。中学ではソフトテニス部に所属。東京成徳大深谷高で陸上部に入り、頭角を現す。12年ロンドンパラリンピック女子100メートル、200メートルで7位。14年仁川アジアパラリンピック女子100メートル銅メダル。慶大体育会競走部所属。


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