日本相撲協会は2月28日、1月の初場所の成績に基づいて編成された「順席」を各部屋に配布した。日系3世の魁聖(24=友綱)は、ブラジル人初の“入幕”。快挙に祝福ムードとなるはずだったが一転、東京・江東区の亀戸天神に出向き、本場所再開を祈願した。八百長問題で春場所が中止となったため「番付」は存在せず、寂しさと違和感を隠さなかった。

 番付を手に、師匠と並んで着物姿で記念撮影-。新入幕力士の「お決まり」のポーズも、魁聖にとっては憧れだった。それが、部屋で稽古後、まわし姿で報道陣に対応という形に。「番付が出ないので残念。ブラジル人初の幕内なので、十両の時とは全然違う」。ブラジル出身の十両は過去に3人。相撲人気が根付いていない母国の後進のためにも晴れ姿を見せたかった。寂しさとともに、春場所を行う大阪にいるはずの日に都内にいる違和感もあった。

 昨年7月の名古屋場所で十両に昇進して以降、故郷のブラジル・サンパウロには両親や日本人の祖母、知人らに毎場所、20枚ずつ番付を送り続けた。だがこの日配布された「順席」は送らないという。「本物が欲しい。(しこ名の)文字が大きくなった番付を見せたかった」とつぶやいた。

 初場所は東十両筆頭で8勝7敗と勝ち越し、新入幕は確実の状況で、この日が待ち遠しかった。一人前になるまでは帰国しないと誓い、06年に入門。「春場所で勝ち越したら、ブラジルに帰るつもりだった」と、幕内で勝ち越し、5年ぶりの帰国を思い描いていた。さらに尊敬する同部屋の大関魁皇と一緒に土俵入りする夢もお預けとなった。

 「新十両の時もテレビがなかった。オレ、何かあるのかな」と、史上初めてNHKが中継を中止した昨年名古屋場所を思い出し、不運を嘆いた。この日午後には、部屋の若い衆7人と亀戸天神に出向き「次の場所が早く始まりますように」と祈った。新入幕力士の番付発表日としては、異例ずくめの1日となった。

 放駒理事長(元大関魁傑)が「今日から幕内力士」と話すなど、給与などの待遇は、この日から幕内として扱われることになった。一方で本場所再開が未定で、モチベーションの低下が懸念されるが、魁聖は「場所がないことは考えず、一生懸命稽古するだけ。好きで相撲をやっているので」ときっぱり。新入幕場所への思いを強めていた。【高田文太】