昨年のこの時期にDeNAの高卒ドラフト1位だった小園のブルペン投球を見た。とてもセンスにあふれていて、捕手の方へと圧を感じさせる投手だった。1年目は下でみっちりと練習して、2~3年に向けて育成する。来春キャンプにどれだけ成長しているか、見られるのを楽しみにしていた。

正直、約1年がたって見た小園の投球に拍子抜けした。「順調にブレークへと来ているぞ」という雰囲気が感じられない。一生懸命に投げているが、本人が思うように球が来ていない。終盤に隣で練習試合の相手の楽天岸が5割程度に見える力で投げていた球の方が伸びを感じたぐらいだ。

周囲の話を総合すると、小園自身が悪いとは思えなかった。昨年2月に2度のブルペン入り後、3月からはウエートトレやフォーム固め。体の張りこそあったものの、大きな故障はない状況で2カ月ほどブルペンに入らない時期もあったという。同8月に2軍戦でデビューしたが登板機会は少なかった。明確な意図は分からないが、球団の育成方針に沿ったルーキーイヤーを送ったとのこと。その結果、これまで培った「投球する」という感覚を、呼び起こす段階まで戻ってしまっているように見えた。

もちろん、大事な逸材の育成は今年だけで決まるものではない、という主張もあるだろう。長い時間をかけて正解が出るものだし、数年後にはこの育成法が正しかったとなっているかもしれない。だが高卒とはいえ、選手寿命はそんなに長くはないのも事実。この日の現在地で言えば、成長具合に疑問符がついた。

昨今の球界には「ルーキーにあまり教えないように」という風潮がある。アマチュアで実績を残した、やり方でまずやらせてみる。そこは否定しないが、プロで生きてきた人からすれば「ここだけは必ず直さなければ。遅かれ早かれ壁に当たるし、変なクセがつく前に」という修正点もある。

野村克也さんは「監督とは気付かせ屋」という言葉を残された。監督に限らず指導者すべてに当てはまる言葉だろう。選手に気付かせるように導くことも大事な一方で、自ら気付けない選手もいる。そういう選手には早い段階で手を差し伸べることが必要だ。

小園は、何球かは迫力ある球もいっていた。そこは昨年感じたセンスの片りんを示していた。あせらず、じっくりとは言えないが、取り返そうと負荷をかけすぎてケガをしては元も子もない。本来の自分のイメージしている球を取り戻し、成長へのレールに乗ってほしい。(日刊スポーツ評論家)

ブルペンで言葉を交わす谷繁氏(左)とDeNA小谷コーチングアドバイザー(撮影・河田真司)
ブルペンで言葉を交わす谷繁氏(左)とDeNA小谷コーチングアドバイザー(撮影・河田真司)
DeNA松尾(手前)の練習を見る谷繁氏(撮影・河田真司)
DeNA松尾(手前)の練習を見る谷繁氏(撮影・河田真司)