野球って、いいなぁ。心の底から、そう思えた試合だった。

2度、身震いした。もちろん村上のサヨナラ打も立ち上がって叫んだ。解説者になって、そんなことをした記憶はない。ただブルッとしたのは吉田の同点3ランと大谷の二塁打だった。

正直、3点ビハインドは重いと思った。4~6回と得点圏に走者を置いたが点が入らない。流れが悪い中での吉田の1発。1打席目から積極的に振りに行っていた。経験上、初見の投手に対してどうしても球筋を見に行くが、振りに行って見逃す、振りに行っては、ファウルにしていた。スイングする中でアジャストさせる。これは国際大会では、とても参考になる攻略法だ。とはいえ、だ。左腕のインローのチェンジアップを、あの体勢でスタンドまで持って行くとは。

大谷も9回の打撃は今までと違った。今大会、得点圏や追い込まれてからコンパクトに振ることはあったが、絶対に出塁するという決意のヒット狙いのスイングだった。それを対戦のない守護神ガエゴスの初球から振りに行った。初球、凡退すれば、サヨナラの期待感は一気にしぼむ。リスクを一身に背負い、二塁打を放った。二塁上の大谷のあんな表情、見たことがない。仲間を鼓舞する、雄たけびだった。

細部を言えば、日本はミスもあった。8回無死一、二塁で源田が犠打を決めた。欲を言えば、2ボールからボール球に対してのバントをファウルにしたが、見逃して四球の可能性を高めたかった。8回のアロザレーナの右越え二塁打はライトの近藤が数歩、前進して目測の判断が遅れた。もちろん、このわずかなミス以上の打撃を継続して見せていることは、記さなければいけない。

それ以上にメキシコはしぶとい野球を展開した。捕手のバーンズはカンペも仕込んでいたが、打者の反応を見ながらデータ一辺倒ではないリードをしていた。8回1死一、三塁では湯浅のモーションを突いて、足の速くないメネセスが二盗を決めた。

メジャーリーガーの主力も多い打線は、特に2巡目からは対応してきていた。私も経験がある。出場した06年大会の米国戦でマスクをかぶったが、1巡目は上原のフォークが通じたが、ジーターやチッパー・ジョーンズは2巡目はフォークへの意識も高めつつ、他の球種にも対応していた。この試合で言えばアロザレーナは初回の先頭で、佐々木のフォークに1球目こそ空振りしたが、2球目からは見極めていた。メジャーで生き抜く打者は、こういうことができる。

だから決勝米国戦は継投のタイミングが大事になる。メキシコ戦は佐々木、山本と2巡目からつかまった。米国戦は先発今永から、早めのスイッチを見据える必要がある。米国打線は今大会最強と言えるが、1回りなら初見の日本の投手陣はそうは打たれない。

細かいことも指摘したが、決勝はもう関係ない。これまでの大会と違い、このチームは従来の日本野球のスタイルに加え、力でねじ伏せる新しい一面を持っている。あと1試合、野球の素晴らしさを味わいたい。(日刊スポーツ評論家)

日本対メキシコ メキシコに勝利し歓喜のハグを交わすヌートバー(中央左)と大谷(同右)(撮影・垰建太)
日本対メキシコ メキシコに勝利し歓喜のハグを交わすヌートバー(中央左)と大谷(同右)(撮影・垰建太)
日本対メキシコ 7回表メキシコ1死一塁、盗塁を狙う一塁走者トレホ(右)にタッチする源田。ビデオ判定の結果アウトとなる(撮影・菅敏)
日本対メキシコ 7回表メキシコ1死一塁、盗塁を狙う一塁走者トレホ(右)にタッチする源田。ビデオ判定の結果アウトとなる(撮影・菅敏)
7回日本2死一、二塁、吉田の同点3ランで生還する一走大谷。左下は二走の近藤=マイアミ(共同)
7回日本2死一、二塁、吉田の同点3ランで生還する一走大谷。左下は二走の近藤=マイアミ(共同)
日本対メキシコ 9回裏日本無死一、二塁、村上宗隆の逆転適時二塁打で生還する一塁走者周東(右)(撮影・菅敏)
日本対メキシコ 9回裏日本無死一、二塁、村上宗隆の逆転適時二塁打で生還する一塁走者周東(右)(撮影・菅敏)
【イラスト】主要国際大会・日本のサヨナラ勝ち
【イラスト】主要国際大会・日本のサヨナラ勝ち