両チームともミスが多い日本シリーズとなっているが、2勝2敗で迎えた第5戦も“ミス合戦”になった。ここまでミスの多い日本シリーズは記憶にない。プレーヤー側の立場からすると「もうミスはできない」という思いが雪だるま式に膨れ上がり、どんどん体が硬くなっていく。こうした悪循環を断ち切るのは、気持ちを切り替える強いメンタル。痛恨のミスを取り返したのは、森下だった。

痛恨のミスは、7回表2死一塁だった。森のセカンドゴロを中野が追い付いていながら後逸した。当然、走者は三塁へ進んでいる。別に焦る必要はなかったが、前進してきた森下が素手で打球を処理しようとしたが捕り損ね、三塁にいっていた宗は、追加点となるホームを踏んだ。

フォローのしようもない痛恨のミスだった。まず走者の動きを見ていないし、状況も頭の中に入っていない。だから、スピードを緩めて確実に捕ろうとしていなかった。そして打球は止まっていないのに素手で捕りにいっている。しっかりスピードを緩めるか、グラブで確実に捕っていれば1点は防げた。1つのミスだが、細かなミスがいくつも重なっている。走者に出ていた投手の田嶋に休養を与える意味でも、これ以上は考えられないような痛恨なミスだった。

しかし、名誉挽回のチャンスが訪れた。8回裏、先頭打者の木浪の当たりをセカンドの守備固めにはいった安達が一塁へ悪送球(記録は1ヒット1エラー)し、代打・糸原と近本が連打で1点を返し、なおも1死二、三塁のチャンスで打席を迎えた。犠牲フライでも同点で、投手は宇田川にスイッチ。どういう打撃ができるのか、注目していた。

ここで最悪なのは三振だった。カウント2-2からフォークを続けてファウル。きちんと低めにフォークが決まれば空振りすると思っていたが、見逃せばボールになる低めの真っすぐをすくい上げるように拾って逆転の三塁打。自らのミスに萎縮することなく「とにかくバットに当ててなんとかする」という攻撃的な姿勢が功を奏した。

振り返ってみると、この思い切りの良さが、守備面での隙につながっているのだと思う。打撃の思い切りの良さをそのまま残し、守備ではもう少し丁寧にプレーする繊細さが出てくれば、もっといいプレーヤーになる。「大胆さ」と「繊細さ」を持ち合わせ、それを使い分けられる選手になってほしい。

それにしても、日本シリーズは日本のプロ野球界で最高峰の戦い。試合そのものはスリリングな展開になったが、プロとして恥ずかしいミスが多すぎる。第6戦、阪神が優勝を決めるにしても、第7戦までもつれるにしても、もう少し締まった試合を見せてほしい。(日刊スポーツ評論家)

日本シリーズ第5戦 阪神対オリックス オリックスに逆転勝利した森下(中央)ら阪神ナインはハイタッチして喜ぶ(撮影・上田博志)
日本シリーズ第5戦 阪神対オリックス オリックスに逆転勝利した森下(中央)ら阪神ナインはハイタッチして喜ぶ(撮影・上田博志)
日本シリーズ第5戦 阪神対オリックス 8回裏阪神1死三塁、大山の適時打で生還した森下はナインから手荒い祝福を受ける(撮影・上田博志)
日本シリーズ第5戦 阪神対オリックス 8回裏阪神1死三塁、大山の適時打で生還した森下はナインから手荒い祝福を受ける(撮影・上田博志)