日本ハムとの練習試合を控えた名護のスタジアムで、試合前の楽天ベンチを訪れ、談笑していて気づいた。鈴木大がスタメンだという。その他にも同い年の阿部、岡島も出る。いずれも今年の誕生日で35歳になるベテランだ。

さらに今月14日に30歳になる茂木や、8月で30歳の田中和も先発する。楽天にとっては初の対外試合。今江新監督も初めて試合の指揮を執る、節目の日だ。「若手主体のメンバーかな」と思っていただけに、少し意外な気がした。

今江監督と話してみて、その真意がよく理解できた。「ベテランが多いチーム。だからチャンスは与える、自分でそれをつかめ、ということです」。そうかと、素直に納得した。

プロ野球にはよくみる現象だが、新人監督は自分の色を出しがちだ。過去の新人監督を見ても、ルーキーを大抜てきしたり、2軍で鍛えてきた若手を引っ張りあげるケースが多い。

分からなくもない。やはり、早い段階から自分が目指す野球を体現する選手、それも若い選手を使うことで、新チームへの移行をスムーズかつ、明確に実行したい。

それが、今江監督はその逆の発想だ。ベテランには最初からチャンスを与える。それをつかむも、つかみ損ねるのも自分の責任だ。だが、最初にチャンスを与える優先順位はベテランにある。ボールはベテラン選手に投げられている。それをつかめば、まず1歩リードが奪える。

このグレードから抜けているのは、野手では浅村くらいではないか。それ以外の30歳オーバーの選手には、まず試合形式で結果を出すことが求められる。この試合、鈴木大、岡島ともにヒットを放った。動きからも、調整の一環で実戦に臨むようなのんびりした雰囲気はなかった。まず、ここで結果を見せて、監督の信頼をつかもうとしているように私には映った。

このやり方が意味するものは、実は多岐にわたって効用があるように思う。若手からすれば、ベテランの結果次第では自分に出番が回ってくるかもしれないと、心づもりができる。つまり、これが若手の台頭、突き上げにつながる。

そもそも若手はいやがおうにも競争の中にほうり込まれている。ポジションがかぶるベテラン選手の結果いかんにかかわらず挑戦するのみだ。そして、たとえベテランが調子を上げていても、あきらめずにレベルアップするしかない。

この試合では、途中から起用されたドラフト6位の中島大輔外野手(22=青学大)は、センター前ヒットを放った。まだはじまったばかりの今江監督のチーム作りは、小さな1歩ではあるが、動き出したと感じた。

私はこれまで、キャンプ前半のこの時期の練習試合では、ベテランよりも若手にチャンスを与えるのが、スタンダードなチーム作りだと俯瞰(ふかん)してきた。しかし、今江監督の狙いを知り、若手の突き上げでチームを活性化しつつ、レギュラー陣の次世代を育て、世代交代を促すことにつながると感じた。

このまま、チーム内競争を促進する姿勢を、今江監督が示し続けることができれば、チーム力はアップするだろう。ベテランからすれば、新体制から自分は好まれているのか、必要ないとされてないかと、不安になることもなく、首脳陣と選手の信頼関係が無駄に壊されることもない。

この今江監督の発想は、自分がベテランだった時の経験を元に編み出したのか、そこは機会があればまた取材してみたい。私は思い付きではなく、自身の経験に基づいていると感じる。

3回表が終わり、鈴木大、岡島、阿部は交代した。このスタンスは、もう少し続きそうだ。そして、このやり方は今江監督からのメッセージとしてチーム全体に浸透していくはずだ。

ふと、こんなことが頭をよぎった。中日立浪監督、西武松井監督、そして楽天今江監督。PL学園出身監督が3人、現役監督として名を連ねる。その中で、今江監督が、PL学園出身監督として初めてペナントを制した時、このマネジメント力が新しいプロ野球のページを彩ることになるかもしれない。(日刊スポーツ評論家)

日本ハム対楽天 試合を見つめる今江監督(右から2人目)(撮影・黒川智章)
日本ハム対楽天 試合を見つめる今江監督(右から2人目)(撮影・黒川智章)