日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(42)が劇的勝利を飾った古巣阪神の途中出場組をたたえた。打線は10回表、佐藤輝明選手(25)が決勝ソロ。虎の大先輩はこの一打が飛び出すまでの過程に注目した。【聞き手=佐井陽介】

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個人的には佐藤輝選手の10回決勝弾が飛び出すまでの過程に、阪神の底力を感じました。前川選手に小幡選手、そして糸原選手…。代打登場で懸命に出塁した3人の働きなくして、この日の勝利はなかったはずです。

2点を追う9回表、先頭小幡選手の四球は素晴らしかったですね。フルカウントから低めの際どい直球を我慢して一塁へ。この四球から同点劇は生まれました。この1球はきっと準備のたまものです。おそらく球審が低めのボールをストライクと取りづらい傾向をベンチで把握できていたから、自信を持って見逃せたのだと想像します。

さらに1死一塁から登場した糸原選手は1ストライクから直球を狙い澄ましたかのように振り抜き、一、二塁間を抜いてガッツポーズです。直前に木浪選手が凡退したことで逆転ムードが少し収まりかけていたタイミング。あの一打がどれだけ流れを引き戻したか、わざわざ説明するまでもありません。

一方、7回1死から前川選手が放った右前打にも価値を感じました。この日の相手先発は右のサイスニード投手。前川選手は「スタメンもあるのでは?」と期待していたかもしれません。そんな試合でライバルでもある左翼スタメンのノイジー選手が早速、2回に先制2ラン。それでも気持ちを切らさず準備を続けていなければ、あの1本もなかったことでしょう。

この3人の誰か1人でも出塁していなければ、10回1死で佐藤輝選手は登場していません。だから、途中出場の選手たちの頑張りをたたえたいわけです。

ベンチスタートのメンバーがこれだけしっかり結果を出せば当然、スタメン勢も刺激を受けます。「モタモタしていたら奪われる」というハイレベルな競争が続いている阪神。主力に結果も付き始めましたし、徐々に上昇気流に乗りそうな気配が漂います。(日刊スポーツ評論家)

ヤクルト対阪神 10回表阪神1死、右中間に勝ち越し本塁打を放ち、右手を掲げながら塁を回る佐藤輝(撮影・藤尾明華)
ヤクルト対阪神 10回表阪神1死、右中間に勝ち越し本塁打を放ち、右手を掲げながら塁を回る佐藤輝(撮影・藤尾明華)