その1本を待ちわびていた。ヤクルト奥村展征内野手(22)は一塁上で満面の笑みを浮かべた。11日の巨人対ヤクルト戦、球場は東京ドーム。2回2死走者なし。巨人菅野の初球を迷わずに振り切った。「1打席目の1球目、甘い球をしっかり振れた」と143キロの外角へのシュートをはじき返した。打球は巨人ファンのオレンジ色とヤクルトファンの緑色で2色に分かれた左翼方向へ飛び、左翼手の手前で跳ねた。プロ入り4年目でやっと生まれた初安打は、両軍のファンに温かく祝福された。

 縁のある相手だった。13年のドラフト、巨人から指名を受けた。同期は小林、田口ら。14年のプロ1年目はジャイアンツ球場で汗を流し、1軍への力をつけた。だが、15年1月に相川のFA移籍による人的補償でヤクルトへと移籍した。

 プロ初安打の裏に絆が隠れていた。打席に向かうとマスクをかぶっていたのは同期入団の小林だった。「打席に入る時にキャッチャーの小林さんが笑顔だったんですよね。それでリラックスできたというか」。たった1年だけだが同じユニホームを着て戦った絆で心に余裕が生まれた。その成果もあってか、初球を思い切りたたくことができた。

 もう1人恩人がいた。巨人軍サイドには当時担当スカウトだった監督付の榑松GM補佐もいた。奥村は「榑松さんの前で打てたのが本当にうれしいです」と感謝を口にした。プロの扉を開けてくれた人の前で成長した姿を見せられたと喜んだ。

 同期と恩人に見守られながら放った一打。今は燕軍団の未来を担う若武者としてグラウンドで躍動している。【ヤクルト担当=島根純】