「究極の考え方は『打たれても死ぬことはない』ということ。『命はつながっている』『明日があるさ』といつも考えています」。5月20日に現役引退を表明した元巨人の上原浩治氏(44)が、今年1月のトークショーで「メンタルを高める方法は?」との質問に答えた時の言葉だ。「失敗はするものだし、10割成功する人は世の中にはいないですから」。21年間の現役生活で、数々の修羅場を経験した「雑草魂」の真骨頂に触れた気がした。

言葉だけではない。18年CSファーストステージ、ヤクルトとの第1戦で「魂の17球」を目の当たりにした。1点リードの5回2死二塁。山田哲を迎える場面で上原が登場した。宝刀スプリットで空振り三振に抑えてピンチをしのぐと、回をまたいだ6回も3者凡退。最後の打者大引を空振り三振に仕留めた瞬間、心の奥底からわきあふれる感情を隠さず、握った右拳付近を目がけてほえた。結果的に1軍公式戦では現役最後のマウンドに。勝利だけを信じ抜いた姿に心を揺さぶられた。

引退会見後のジャイアンツ球場では「もっといろんなことを聞いておけばよかった」「こんなに急とは…」と惜しむ声があふれた。大切なものはなくした時に気づくもの。短い時間ながら目で耳で味わった「上原浩治」を胸にとめ、今後の人生の糧にしていきたい。【巨人担当=桑原幹久】