天福球場の正面玄関で広島大瀬良大地投手と話し込んでいると、たまたま小園海斗内野手が後ろを通りかかった。「こんちわ! 」「お疲れ! 」。小気味良いやりとりの後、話題は自然とスター候補生の現在地に移った。

広島の大黒柱は今春、右肘手術から万全を期す意味合いで2軍日南キャンプスタート。一方、高卒3年目のホープはアピール不足が影響して宮崎にいる。「何やってんすかね。上にいなきゃいけない選手なのに…」。先輩はそう苦笑いしつつも「でも、あいつ、頑張ってますけどね」とフォローも忘れなかった。

聞けば、日南では頻繁に尻をたたいているという。投手、野手の垣根を越えて、グラウンドですれ違うたびにいじり続けている。

「はよ1軍上がれや」

「練習やっとけよ」

「ここにおっていい選手ちゃうぞ」

「オレの後ろを守るぐらいの気持ちで頼むぞ」

プロ1年目にプチブレークしたとはいえ、後輩はまだ20歳。心を鬼にした首脳陣の愛情をきちんと理解できているのか、このまま腐ってしまわないか、気にかかるのだろう。

小園は全国的にも注目度、期待値が高い分、時に厳しい声も浴びせられる。「だからこそ、応援してくれている人もいるんだよ、ということを分かってもらいたいんです」。29歳は静かに真意を語る。

大瀬良は今季から投手主将に就任した。選手会長の田中広輔、野手主将の鈴木誠也らとチームをまとめる上で、2軍キャンプスタートは案外プラスに働くかもしれない。「初めてしゃべる選手ばかりでしたけど、最近は話を聞きに来てくれる選手も増えました」。うれしそうに主将は言う。

右肘のケアに専念すればいい立場なのに、個別練習では若手にネットスローを見せる。「キャッチボールしよう」と声をかけ、フォームの修正点を話し合う。

「ずっと1軍にいたら、若い選手の性格とか取り組みまでは分からなかった。今は一緒にいられる。少しでもいい方向に向く手助けができればと思います」

背番号14が2軍にいられる期間はもう残り少ない。時間が許す限り、後輩たちに寄り添いたい。チームを底上げしたい。そんな親心ならぬ“兄心”が相手に伝わらないはずがない。

大瀬良取材の後、小園にも話を聞けた。「宮崎で大瀬良さんたちと一緒にやれているのはある意味ラッキーだと思う。すごい選手から声をかけてもらえるのは、やっぱりうれしいです」。若者は屈託ない笑みを浮かべて目を輝かせていた。

その日、日南はザアザア降りの悪天候が一日中、続いた。室内練習場だけで消化できるメニューは決して多くない。蓄積疲労回復の狙いから大半の野手が早めに練習を切り上げていく中、小園は最後の最後まで球場を離れなかった。

アスファルトをたたく雨音に耳を傾けながら、「大瀬良効果」なんてフレーズが脳裏をよぎったりした。【遊軍 佐井陽介】

右肘手術明けの広島大瀬良は2軍日南キャンプスタートから開幕に向かう(撮影・佐井陽介)
右肘手術明けの広島大瀬良は2軍日南キャンプスタートから開幕に向かう(撮影・佐井陽介)
右肘手術明けの広島大瀬良は2軍日南キャンプスタートから開幕に向かう(撮影・佐井陽介)
右肘手術明けの広島大瀬良は2軍日南キャンプスタートから開幕に向かう(撮影・佐井陽介)