このコラムには「現場発」という題名がついているので、なるべくテレビやネットでは分かりづらい事象を取り上げようと思っている。今回は、テレビで分かりづらい「投手プレートの位置」について。

DeNAの中継ぎ左腕、砂田毅樹投手(26)が、18日の広島戦(マツダスタジアム)で今季2勝目を挙げた。1-1の7回2死一、三塁で先発京山将弥の後を継いで登板。小園を1ストライクからの2球目、130キロのスクリューボールで投手ゴロに仕留めた。8回に味方が3点を奪い、勝利投手の権利を得た。

わずか2球だが、されど2球だ。1球目。砂田は投手板の一塁側を踏んで、左打者の外角へ124キロのスライダーを投げた。これが見逃しストライク。2球目。今度は投手板の三塁側を踏んで、130キロのスクリューボールを内角へ投げた。小園をどん詰まりの投ゴロに仕留めた。ピンチを脱したのだ。

この砂田という投手は、プロ野球界で希少な存在だ。1球ごとに、61センチある投手プレートの立ち位置を変えるからだ。厳密に言えば、1球ごとに必ず変えるわけではない。2球同じ位置を続けることもあれば、3球同じ場合もある。

昨季の途中までは一塁側を踏んでいた。だが、1軍昇格した際、ヤクルト石川雅規が打者によって踏み分けていることを参考に、川村丈夫投手コーチにすすめられ、三塁側も踏むようになった。同じ球種が「2倍になる」というメリットがあるという。

40代後半の記者が子どものころは、指導書には右投手は三塁側、左投手は一塁側を踏むように書いてあった記憶がある。だが、現在の野球では、当てはまらない。DeNAでいえば、左腕エース今永昇太投手は三塁側を踏んでいるし、チームの勝ち頭、大貫晋一投手はアマチュア時代から一塁側を踏んできたが、最近になって三塁側に移動した。巨人から移籍してきた宮国椋丞投手は一塁側だし、京山将弥投手は、ほぼ真ん中を踏んでいる。

三浦大輔監督は現役時代、三塁側を踏んでいた。だが、相性の悪い荒木雅博(中日)と対戦する時には、一塁側から投げたこともあるという。「難しいですよ。位置を変えるだけでもベース板の使い方が、角度が変わるし。角度変えるとスライダーの曲がり幅が変わったりする」。砂田の変幻自在ぶりは「どうやって抑えるか、どうやってこの世界で生き残っていくかの工夫がマウンドに表れている」と評価する。

幅61センチの白い板には、ドラマが詰まっている。いろいろな投手に話を聞いてみたい。【DeNA担当=斎藤直樹】