同世代のスターの引き際を、静かに見守っていた人がいる。3日のイースタン・リーグ最終戦。日本ハムのチーム統轄本部国際グループに所属する榎下陽大(33)は寂しさと感謝を交じらせ、熱っぽくマウンドを見つめていた。視線の先では、今季限りで現役引退する斎藤佑樹投手(33)が、涙を流して2軍での最終登板に臨んでいた。

2人の出会いは、高校時代までさかのぼる。06年夏の甲子園準決勝。鹿児島工の榎下と早実の斎藤が投げ合ったことが、始まりだった。高校最後の夏が終わったあと、今度はチームメートとして再会。日米親善高校野球大会の日本選抜メンバーに選出され、一緒に海を渡り、世界を見た。「ユーキ」「ヨーダイ」。少しずつ、2人の野球人生は交わっていった。

出会いから4年後の10年ドラフト会議。1位指名を受けた斎藤、4位の榎下は、そろって日本ハムに入団した。「こんなこと、あるんだなあと思いました」。榎下は懐かしみながら、野球がつないでくれた縁に感謝した。17年に榎下は現役引退し、現在は2軍本拠地の千葉・鎌ケ谷を拠点にチームに尽力している。2軍で奮起していた現役後半の斎藤は、どう映っていたのだろうか。

榎下 グラウンドでは、常に笑顔でいました。ケガの影響で苦しいことばかりだったと思いますが、良いときも悪いときも、変わらない姿だったのが、すごいですよね。人の話をよく聞く。出会ったときから本当に変わらず、ナイスガイなんです。

斎藤の光と影を、間近で見てきた。“佑ちゃんフィーバー”に始まり、シーズンを棒に振るほどの大ケガを負っていたときも、斎藤は注目され続けた。榎下は小首をかしげながら「あれだけ騒がれたら、普通は人間性は変わる。でも、良い意味で変わらないんです。甲子園での話とか、武勇伝を自分から話している姿は見たことがない。だから『何だ、アイツ』と言っている人も見たことがない」。

斎藤が現役引退を発表する前日の9月30日。練習後、いつもと変わらない笑顔で握手を求められたという。「ありがとう、と。それだけでしたが、他に言葉はいらないんです」。野球を軸に、新たな関係が始まる。強く結ばれた絆は、この先も紡がれていく。【日本ハム担当=田中彩友美】