愛すべき「ジョンジーさん」は、無邪気にグラウンドを駆け回る。オリックスのアダム・ジョーンズ外野手(36)は試合中、外野手のキャッチボール係を務める。

理由を尋ねると、満面の笑みで「ずっとベンチにいるのも退屈だからね」とジョークさく裂。ガムをかみながら「いい年だから、体を動かさないと」と表情を崩す。フィールドシート最前列のファンとキャッチボールを行う機会も見られ、試合中に遊んでいるようにも見受けられるが、実際はそうではない。

ジョーンズは、基本的に6回からグラウンドに出てくる。意味がある。「目を照明に慣らしているんだ。試合前の打撃練習でもライトはついているけど、全部のライトが光っているわけじゃない。試合では、全部の照明がついている。(5回裏までは)ベンチ裏の打撃ケージで打ったり、ストレッチを。でも最後は(目に)ライトの明るさをしっかり調整したいからね」。納得させられる説明だった。

MLB通算1939安打&282発の実績を誇るジョーンズは「代打の神様」として君臨。20日の日本シリーズ初戦でも9回無死一塁から代打で登場し、7球目を選んで四球。サヨナラ劇を演出した。25年ぶりVに導いた今季は72試合に出場し、37度の代打出場。1打席にかける集中力は極めて高く、代打成績は打率4割2分9厘で、出塁率は5割6分8厘と驚異の数字をマーク。シーズン終盤には親族の不幸があり、緊急帰国したが、ジェット機をチャーターするなど“超速”で再来日。隔離期間を経て戻ってきた。

「野球は失敗の連続。誰かがアウトにならないと、試合は終わらない。だから、切り替えが大事なんだ。その中で常にベストを尽くすこと。また新しい1日が始まるから。エンジョイ、野球!ジャパニーズプレーヤー、エンジョイ!」

“本物”は、野球の楽しさを教えてくれる。報道陣にも、仕事の楽しさを忘れさせない。毎朝、顔を合わす度に「オハヨー!ゲンキしてる~? 」とあいさつからスタート。英文の書かれたホワイトボードを掲げると、立ち止まって黙読。数秒後には、自身の考えを教えてくれる。ボード板を確認し、英語が話せない日本人だと認識すると「ダイジョウブ~? ワカル?」と滑らかな日本語で対応する。

「AJ10」と書かれたシャツを着て球場入りするジョーンズに「ナイスデザイン」と伝えると、その翌日には同じ柄のシャツを手渡し「一緒のシャツを着て、運動しよう」とサプライズプレゼント。自由人を装いながらの紳士ぶりに、胸を打たれる日々が続く。

CS突破を決め、日本シリーズまで試合がない期間に紅白戦を行った際は、3番吉田正が打席に入ると「ナニカヒトツ、デ~モ、夢中になれる、モ~ノヲ、ナニカヒトツ、ム~ネに持ってみろよ~♪」と主砲の登場曲である若旦那の「何かひとつ」を日本語で熱唱し、盛り上げた。

19年オフにオリックスと2年契約し、20、21年と2シーズンをプレーした。「日本での2年間は本当に素晴らしい経験だった。家族も…。妻も息子たちも日本を気に入ってくれて、信じられないほど素晴らしい経験をした」。契約3年目は球団に選択権がある。ジョーンズは「常にポジティブになることの重要性を教えてきた。自分がオリックスに手助けできることがあれば、何でもする」と常々、公言している。

試合後のあいさつは「マタアシタ!タブンネ…!」。スタジアムに虹がかかると、目を輝かせて追いかける。そんな純朴な「ジョンジーさん」が、まだまだ見たい。【オリックス担当=真柴健】