マスク越しに、じっと見つめた。オリックス頓宮裕真捕手(25)は、ふらふらとセンター方向へ進む飛球の落下を見届けるしかなかった。

20日の日本ハム戦(京セラドーム大阪)で“あと1球”に泣いた。ドラフト1位右腕の椋木が、9回2死2ストライクまで無安打無得点投球。日本ハムの代打佐藤へ投じた、この日116球目の「カットボール」には自信があった。

試合後、バッテリー2人でポツリと確認した。頓宮は「最後どうやった…? カットボール選んだけど」と椋木に尋ねると、笑顔で回答があった。「僕も、真っすぐかカットボールだと思ってました!と言ってくれました」。気持ちは合致していた。

カットボールを選択した理由がある。「1球前のフォークをファウルにして、ポイントを前に出していた。だから、調子の良いカットボールで行けるかな」と、右手でサインを送った。結果は中安打を許し、偉業達成ならず。ただ、頓宮は「迷いなくサインを出せて、悔いはないです」と胸を張った。

「打たれた瞬間はショックでした…。ただ、あの場面で、もし四球で出て走者一塁でホームランなら同点。3-0だったら、まだ余裕があったんですけど、とにかく塁に出さないことを考えていました」

点差は2点。頓宮は大記録の前に、白星へのこだわりを見せた。3回には2者連続四球を与えて、ピンチを迎え「あそこを抑えたあとに、中嶋監督に『もっとゾーンで行こう』と一言もらった。そこからは真ん中付近に構えて、リズムよくいけた」とギアチェンジにも成功していた。

椋木はこの日初ヒットを許した場面でマウンドを降りた。ただ、頓宮はマスクをかぶったままだった。「試合は続いている。勝つことしか頭になかった。(守護神の)平野さんは本当にすごい。あの場面で普通に抑える。僕は悪い流れだなと思っていたんですけど、スッと抑えてくれた。本当に助かりました」。27個目のアウトを奪い、センターに抜ける白球の残像は、消えた。【オリックス担当 真柴健】