記念球を掲げる背番号96には、苦悩の時期があった。オリックス宇田川優希投手(23)が8日西武戦(ベルーナ)でプロ初勝利をマークした。

先発登板したドラフト1位椋木が右肘の違和感を訴えたため、2回1死一塁から、2番手で緊急登板。ブルペンで肩を作る時間もなかったが、落ち着いた投球で2回2/3を無安打無失点。無四死球で5三振を奪う快投で、流れを呼んだ。

目前で繰り広げられる宇田川の快投を見て、ふと思い出した。携帯の電話帳アプリを開き、液晶画面をスクロールする。「さ」から数件、下がると発見した。

「佐藤優悟・オリックス」

5回裏が終わると、通話ボタンをプッシュした。

数回のコール音を待つと「お久しぶりです!今からご飯食べるところなので、折り返します!」と元気な声が聞こえた。

声の主は19年育成ドラフト7位でオリックスに入団し、育成選手として2年間プレーした佐藤優悟外野手(25)。現在は独立リーグの福島レッドホープスで鍛錬を積んでいる。

折り返しを待つと、8回に伏見の2号ソロ、中川圭がこの日2本目となる6号ソロで着実に追加点を奪い、白星が見えてきた。

佐藤優と宇田川は1学年差。仙台大でともにプレーした「先輩後輩」。宇田川が20年育成ドラフト3位でオリックスから指名を受けた際、親身になって相談を受けた。

電話越しの声が響く。

「あのとき(宇田川は)本当に迷っていた。実際、どう思います? って聞いてきたりでした」

社会人野球に進むか、育成契約で支配下を目指すか-。佐藤優は「社会人野球も進路の1つだけど、彼の実力なら、プロの世界で勝負しても支配下選手登録を勝ち取れる可能性は高かった」と振り返る。

決断を下した宇田川は「悔しい思いもあったけど、早くプロに入って活躍したい」と、仮契約の際に力を込めた。

1年先にオリックスへ入団した先輩と連絡を取ると「これ以上ない環境で野球ができる。寮の隣に室内(練習場)があって、いつでも練習ができる。設備は本当に整っている。寮はご飯もあるから、本当に野球に専念できる」と力説を受けた。

そんな思い出話を振り返ると、佐藤優は「僕は何もしてませんよ。寮の部屋がどんな感じか(写真で)見せたり、退寮した先輩選手が寮に置いている冷蔵庫を(後輩のために)ストックしたり…。それだけですよ」と謙遜。言葉の縁がつないだ、プロ初勝利だった。

オリックス在籍は2年だったが、佐藤優は仲間に恵まれた。かつて、伏見から誕生日プレゼントとしてもらった高級ブランドのスニーカーは「汚れるのが怖くて、履けませんよ…!」と何度も磨いた。ラオウ杉本から受け取ったバットや打撃手袋などの野球用具は「宝物です」と、感謝を込める。

人と人をつなぐ縁-。佐藤優の「一言」が、ウイニングボールをさらに輝かせた。【オリックス担当=真柴健】