9月になった。この夏はZOZOマリンの試合中にセミを見かけなかった。松川虎生捕手(18)は「怖いですね」と恐れ、高校時代はセミを持つ仲間から逃げていたそうで、無事に夏が終わって何よりだろう。

仙台での楽天戦ナイターでは鈴虫の声が聞こえた。季節は確実に秋へ。12日、神奈川・海老名市の田んぼにもシオカラトンボが飛び回っていた。自然観察に出向いたわけではない。ロッテ佐々木朗希投手(20)がそこにいるのだ。

本人ではなく、かかし。小田急・海老名駅から徒歩19分30秒、同厚木駅からなら6分30秒。「中新田(なかしんでん)かかしまつり」が行われている。

佐々木朗のかかしを作ったのは、海老名に住む筋金入りのロッテファン井上肇さん(59)だ。子どもを喜ばせようと仮面ライダーのかかしを作ったのがきっかけ。その後も大河ドラマを中心に、世相を表すかかしを年1度の祭りに出品してきた。夢があった。「いつかロッテの選手のかかしを作りたかった。でも、出しても野球ファン以外にはあまり知られていないし…」。

しかしついに4月10日、完全試合が。世が騒ぐ。これならいける-。週末に数時間ずつ作り、約3カ月で完成させた。発泡スチロールに布テープを貼りながら造形。顔は粘土で作った。「足が長くなりすぎたりして、作り直したり」。東京ドームで“採寸”も兼ねて観戦したりもした。「2階席からだったので、ほとんど見えませんでしたけどね。でもやっぱりすごい投手でしたね」。

そうやってできあがった自信作を、週末は1日に2度は見に行く。「風で倒れないか心配なんですよ」。佐々木朗を存分に表現するために、あえて足を高く上げるフォームのかかしにした。「朗希君といえばあのフォーム。何としてでも再現したかったので」。スパイク裏まで忠実に再現されたかかしは、ついついいろいろな角度から撮影したくなる。

92年から始まった歴史ある行事だ。海老名市は神奈川県内でも都市化が一気に進んだエリア。農地が減り、後継者不足も重なり1度は消滅しかけたが、地元有志が保存会を立ち上げ、今年も行われた。地元の中新田小では田植え→かかし作り→収穫→餅つき、まで全てを授業で行う、全国でも珍しいモデル校でもあったという。

発起人でもある波多野康広事務局長は「田んぼ道を通って病院へ通う人に『今年もかかしを見れて楽しいわ』と言っていただいたり『稲が育ってきたころにかかしがあると和むね』と言っていただいたり。いつか田んぼがなくなる日が来ても、こういう文化があったことを後世に残せるように」と思いをはせる。

世相を映すかかしたち。今年はその中心に佐々木朗希がいた。「有名になると野球選手もかかしになれる!」と波多野氏は笑う。田んぼで投げる佐々木朗希を拝めるのは、9月19日午前中まで。小田急線の車窓(海老名~厚木間)からも背番号17がハッキリと見える。【ロッテ担当=金子真仁】

神奈川・海老名市の中新田かかしまつりで展示されるロッテ佐々木朗のかかし(撮影・金子真仁)
神奈川・海老名市の中新田かかしまつりで展示されるロッテ佐々木朗のかかし(撮影・金子真仁)