「強引にいけ!」

日本ハム鈴木が投じた88キロのフワ~リとしたスローカーブが、外いっぱいへと流れて落ちていく。西武愛斗外野手(26)は流そうとせず、ヘッドを入れ、レフトへ思い切り引っ張って三遊間を割った。

それを見ながら思い出したのが、冒頭の「強引に行け」だ。母校の花咲徳栄(埼玉)・岩井隆監督(53)が数年前、軟投派投手を攻略するために、あえて選手たちに発した指令だ。逆らわず、ではなく「強引に」。青春の教えが影響したような一打に、言葉の深さを感じる。

ちなみに「強引にいけ」について、愛斗は「そんな感じで打ちました。しっかり振ろうと。岩井先生の教えがあったから、というわけではないですけどね」としつつ、高校時代の記憶をひもといてくれた。

「思い出すこと…。全てにおいて、高校の時に僕は成長させてもらったので、岩井先生に作り上げられたのが僕なんで。もともと僕は野球がうまかったわけじゃないし」

岩井監督は「愛斗の守備は入った時から抜群だった。教えることがなかった」と振り返ったことがある。

愛斗が笑う。

「いやいやいや。たくさん教えていただきましたよ。怒られたのもキリないし(笑い)。全てにおいてっす。技術面も精神面も」

特に印象的だったエピソードを教えてくれた。

「僕、大会の前になると全然打てなくて、案の定、3年の最後の夏も開幕1週間くらい前にバットにボール当たんなくなったんすよ。打撃練習で。悩んでる時に岩井先生に『来い』って言われて」

花咲徳栄は自主練習の時間も多い。だから毎日欠かさず自主練習していることも、自分しか知らないと思っていた。しかし。

「お前が一番練習してきたの俺は知ってる。一番練習してきたんだから、自信もって、覚悟もって打席入れ、みたいなことを言われて、今日はもういいからあがれって言われて」

翌日から不思議と、振ればホームラン性(の打球)が出るようになったという。甲子園での活躍にもつながった。

「言葉1つでこんなに変わるんだと思いました。自信もって覚悟もってやらないと負けちゃう。今もかみしめながらやってます」

言葉の深い監督だ。日本ハム野村佑希内野手(22)の代の同校卒業式にお邪魔した。こんな言葉で3年生45人を送り出していた。一部を抜粋する。

「いつも俺が思っていたことは『いま分からなくても、いつか分かってくれるはずだ』と。卒業してから分かることもたくさんあるはずなので、それを信じてやってきました」

続けた。

「道には2つあると言われます。人が作った道と、自分が切り開いていく道。ここまではお父さんお母さんや先生方、いろいろな人が作ってくれた道を歩んできたんだと思う。これからは1人1人が自分の道を歩んでいく番。ただ、この2つの道は全く別物じゃない。常に並行して延びていると思っています」

教え子たちの目を温かく、ジッと見る。

「いつかこの道はまた交差するんだ。その交差した時が、君たちが今まで育んできた学びが思い出される時です。『ああ、先生、こんなこと言ってたな』『親がこんなこと教えてくれたな』。それが“交差する”というんです。みんな、これから自分の道を切り開く中で、それをしっかり守っていけば、社会に出ても胸を張っていける人材だと思っています」

数十人、数百人の中でもまれ、もがき、磨き上げた高校3年間。愛斗も、63打席ぶりに1軍で安打した西川愛也外野手(23)も、今でも得難い経験と、師の深い思いに支えられている。【西武担当 金子真仁】