環境や立場が変わると、背伸びしたり、虚勢を張ったりして失敗することがある。新境地になじむまでというのは多少の時間を要すものなのかもしれない。だが、今季大きく立場を変えても、自分のままでいる選手がいる。広島の矢崎拓也投手(28)だ。

5月9日から抑えを任され、ここまで11セーブを記録する。21年まで入団5年で通算登板数は22試合。先発、中継ぎ固定されず、主戦場は2軍だった。昨季途中からセットアッパーを務め、とんとん拍子で抑えまで登りつめた。キャリアで初めて2桁セーブに到達した24日巨人戦後には自身でも「2年前とか想像していることもないし、周りもしていなかったと思う。想像してなかったことが起きている」と話していた。

目を見張る安定感を見せる。抑えを任されてから18試合で4試合で失点しているが、2試合は4点リードの9回に失点したもので、1試合はリードを守った。セーブシチュエーションでの失敗は14日楽天戦の1度のみ。結果その裏にチームがサヨナラ勝利して勝ち投手になっている。

広島の抑えという大役は、日本を代表するリリーバー栗林の代わりを担うという重圧も背負う。そんな外部の声には耳を貸さないのも、矢崎の強さ。

「僕は栗林じゃないので、栗林の代わりになれるわけがないし、栗林の代わりになってくれと期待されてマウンドに上がっているわけじゃない。“僕がやるべきことをやればチームのためなる”と思われているんじゃないかと考えて(マウンドに)上がっている」

21年から取り入れた座禅の成果か、すべてを受け入れられるようになった。奪三振率7・17は抑え投手では低水準も、投球スタイルを変えるようなことはしない。マウンド上で自分に語りかける動きは、抑えになったからではなく、昨年から続けていることだ。交流戦初めて抑えとして登板した31日オリックス戦。2点リードの9回に上がると、緊張した様子を感じさせずに「こんなふうになっているんだ」と言うように京セラドームの天井を見渡しながら投球練習を始めた。初登板となる同球場に、浮足立つことはなかった。

良くも悪くも、立場を変えても変わらない印象を受けていた。だが、本人に聞けば、ある意味で正反対だった。

「変わらないようにといっても、変わるものなので。物事は変化する前提で動いている感じです。自分の立場も、体も、球も…。どれも変化する前提で動いていて、その変化に対応できるようにという感じです」

すべては変わるもの。それを素直に受け入れているからこそ、自分のままでいられるのだろう。言葉で分かっても、そう考え、平静を保つことは容易なことではない。そこに矢崎の強さを感じる。【広島担当 前原淳】

6月24日、お立ち台でポーズを決める、左から大瀬良、矢崎、堂林
6月24日、お立ち台でポーズを決める、左から大瀬良、矢崎、堂林