涙の理由はきっとひと言では言い表せないだろう。
今季限りで退任し、最終戦でスピーチする巨人原辰徳監督(65)を前に、菅野智之投手(34)は涙を抑えきれなかった。おいっ子だからというだけではない。選手と監督として、互いに揺るぎない信頼があったからこそ。無言でマウンドを託されることもあれば、厳しい言葉でハッパを掛けられたこともある。今でも忘れられない。プロ入り1年目のちょうど今ごろだった。
13年、チームは原監督の下、リーグ2連覇を果たし、進出したCSファイナルで広島と対戦した。ルーキーイヤーで13勝挙げた菅野は2戦目に先発し、3安打完封。新人離れした結果と内容ながら試合後、原監督から掛けられたのは「勝負師じゃない」という厳しい言葉だった。当然ながら、結果に対してではない。マウンドでの「表情」に苦言を呈された。捕手からのサインに対し、わずかにこぼれた微妙なリアクションを指揮官は見逃さなかった。
「めっちゃ怒られましたよ。そのときは『完封したんだからいいじゃん』って思ったけど。ジャイアンツっていう球団はそうじゃいけないんだなって、自分でも思うことができた。完封して怒られたのは僕くらいだと思う」。勝ってこそ怒られた、その言葉の意味をくみ取り理解した。
だからこそ今季終盤、9勝してから2桁勝利を目前に6試合足踏みした山崎伊に対し、マウンドやベンチでの立ち居振る舞いに目がとまった。「思ったことは言ってあげようと思っている、アイツのためにも。もったいないじゃないですか」。後輩投手が7度目の挑戦で初の10勝目をマークできたのも、きっと偶然ではない。原監督が残した勝負に徹する執念は、こうやって脈々と受け継がれていく。【巨人担当 栗田成芳】




