プロ野球開幕が迫る中、広島はまだ4番も決まっていない。

昨オフに西川がオリックスへFA移籍し、中軸を担った経験のある選手は秋山くらいで、外国人選手も未知数。今年も対戦相手や自軍選手の調子によってスタメンを入れ替えながら打線を組んでいくことになるだろう。昨季終盤にケガ人が相次いだことから、シーズン序盤でもレギュラー陣を休ませることも十分考えられる。

昨季リーグ覇者の阪神のようにレギュラーが固定できていないからこそ、ベンチメンバー全員でシーズンを戦っていかなければいけない。新井監督はシーズンを戦いながらチームをつくり上げていく考えのようだ。今、1軍争いを繰り広げる若手の底上げが今季のチーム力につながっていく。若手選手の可能性が広がるほど、首脳陣としても選択肢が広がる。

たとえば昨季、遊撃の守備固めを中心に起用された矢野雅哉内野手(25)は、ここまでオープン戦では二塁手として9試合起用されている。93試合に出場した昨季は二塁での出場が5試合しかなかった。今季は侍ジャパンにも選出された小園が遊撃に固定される可能性も十分にあるだけに、二塁という新境地開拓でチャンスは広がる。

備えあれば、憂いなし。1月、菊池から「内野すべて守れるようになっておいた方がいいんじゃないか?」という助言からマンツーマン指導を受けてきた。

「ショートとセカンドはまず角度が違う。ショートは(打球を取ってから)動けるけど、セカンドは素早く投げないといけない。矢野はまだ、正面の打球を全力でチャージをかけちゃうけど、打球は来るからと言っている。違うところはいろいろある」

遊撃手としてプロ入りした菊池自身、遊撃から二塁へのコンバートの難しさを知る。力をつければライバルとなり得る後輩にも、今後も助言を惜しまない。10年連続ゴールデングラブ賞受賞の技を伝授した。

高い守備力に加え、強肩という点でも菊池と矢野には共通している。三併殺や遊併殺では、菊池の細かな動きから一塁へ力強い球を投げられる技術が何度も助けてきた。欠場時に最も穴の大きさを感じさせたポイントが、矢野は補完できるだけの肩を持っている。

守備技術では師に劣るが、菊池も「矢野の方が強い」と認める。首脳陣には代役候補としてアピールに成功している。さらに外野守備も高く評価され、代走としても起用できる。一人二役も、三役もこなせる矢野は開幕1軍入りするに違いない。「とにかく試合に出たい」。出場機会を増せば、課題とされる打撃でも打席を与えられるだろう。ほかの若手も、矢野のように一芸に新たなオプションを増やすことでチャンスは広がっていくに違いない。【広島担当=前原淳】