阪神生え抜き16年。原口文仁内野手(33)が現役を引退した。

波瀾(はらん)万丈、紆余(うよ)曲折の野球人生。多くのケガも育成落ちも経験した。何より、生死に関わりかねない大病も克服した。苦難を乗り越えてレギュラーをつかみ、最後は全員に惜しまれながらグラウンドを去った。その努力に改めて敬意を表したい。

8月下旬、急に声をかけられた。「あの選手のこと書いていましたね」。理解するまで少し時間がかかったが、高校野球の県岐阜商・横山温大選手のことだった。記者は数日間だけ阪神を離れて、夏の甲子園大会に行っていた。生まれつき左手の指が少ないハンディを抱えながら好プレーを連発するスーパー球児を取材する機会に恵まれた。

原口は県大会のころに新聞記事などで横山選手のことを知り、以来、気にかけていたという。「やっぱりすごいですよ。ああいうハンディがあってもね。大学に行っても野球するんですね。本当にすごい」。多く語ろうとはしなかったが、苦しいシーズンを過ごしていた原口自身も、身の振り方を悩んでいた時期だった。そこに登場した不屈の高校生に何かを感じたのでは、と勝手に推測した。

帝京高から捕手としてプロ入り。阪神の高卒野手は育ちにくいというジンクスにあらがうように、人並み外れた努力で道を切り開いてきた。10月2日の盛大な引退セレモニーは誰の心にも深く刻まれるだろう。

「選手」としては最後の球団イベントとなったハワイ優勝旅行で残した言葉が印象的だった。

「自分が高卒だった分、山田とか百崎とかね。僕と秋山(拓巳)のような。早く1軍を経験して、チームの幹になれるような選手になってほしい」

道が険しいことを誰より分かっているから、高卒でプロ入りしたホープに期待した。これからはチームと離れたところから後輩たちの成長を見守る。野球の裾野を広げる活動も続ける。多くの経験は、野球界の未来に欠かせない。さらなる活躍を楽しみにしたい。【柏原誠】

笑顔で練習の片付けをする県岐阜商の横山温大(2025年8月20日撮影)
笑顔で練習の片付けをする県岐阜商の横山温大(2025年8月20日撮影)