「ケガをしない投げ方」とは。筑波大硬式野球部の監督で、同大准教授の川村卓氏(49)に「動作解析」の視点から聞く。

筑波大・川村卓氏(撮影・保坂淑子)
筑波大・川村卓氏(撮影・保坂淑子)

大船渡の佐々木朗希投手が、骨密度測定の結果まだ成長途上の体であると判断され、登板回避したことが話題になった。

川村氏 人間は中学生くらいで身長が止まります。身長が伸びている間に分泌される成長ホルモンは、骨を伸ばすために使われ、この間は激しいウエートをしてもあまり効果はありません。成長ホルモンの分泌がやむと骨の成長も止まるので、身長も止まり、そのあたりから筋トレを始めると筋肉が成長してくるのです。大人の骨かどうかを判断する手段として骨端線が閉じているか調べたり、成長ホルモンが分泌されるときに出ている物質が血液の中にあるかどうかを調べます。

佐々木投手は、骨密度、血液検査、骨端線の検査などで、大人の骨でないと診断されたようだ。

骨端線
骨端線

川村氏 骨端線は、骨の端にある軟骨の部分で、成長が止まると両側の骨が癒合(ゆごう)することで見えなくなります。これを「骨端線が閉じる」と表現しますが、閉じる前の骨は軟らかくもろい。投球のような激しい力を加えると、負担がかかりやすくなってしまうのです。

 
 

成長期に無理をして投げる子どもが、後に手術を受けることが多いという。手早く発育を把握する方法がある。

川村氏 小さい子の手のひらの中央よりも少し下の部分。大人は手根骨が詰まっていますが、小さい子どもはまだグニャグニャです。

発育発達には年齢も大きく関係している。

川村氏 「暦年齢」と「相対年齢」と「生物学年齢」の3つがあります。暦年齢は生まれてからの年齢。相対年齢は1年で見ると、4、5月生まれの子は成長が早く、早生まれに近い子が不利。生物学年齢は、個体差の成長による年齢。同じ年齢でも、前後2~3歳の差がある。サッカーで「飛び級」があるのがそうですね。例えば、清宮選手の中学時代は、身長180センチ以上、体重も90キロ以上あったそうです。彼は、体でいえば上のカテゴリーに入ってもおかしくない。

親が簡単にあきらめてはいけない。

川村氏 私のデータでは、小学生の野球の能力は身長に比例している結果が出ています。身長が伸びず力を発揮できず、野球をあきらめてしまう子がいる。しかし、生物学年齢があるわけですから「これから身長が伸びればうまくなるよ」と指導してあげることが大切です。中学に入って身長が伸び、能力が逆転する例がよく見られます。

日本高野連が設けた「投手の障害予防に関する有識者会議」で、早大の小宮山悟監督がプロで2000イニング投げたが1度も肩、肘を手術したことがない理由を「成長期に投げ方は教わったが投げ込みはなかった。早大に入ってから投げ込んだ」と説明した。年齢と体の成長に応じた育成が、選手の運命を左右する。(つづく)【保坂淑子】

◆川村卓(かわむら・たかし)1970年(昭45)5月13日、北海道江別市生まれ。札幌開成の主将、外野手として88年夏の甲子園出場。筑波大でも主将として活躍した。卒業後、浜頓別高校の教員および野球部監督を経て、00年10月、筑波大硬式野球部監督に就任。現在、筑波大体育系准教授も務める。専門はスポーツ科学で、野球専門の研究者として屈指の存在。