MLBが、提携関係にある米独立アトランティックリーグでロボット審判、一塁盗塁などの大胆な新ルールを実験導入した。うまくいけば将来的にメジャーでも導入する可能性大とあって注目されている。未来の野球とはどんなものなのか。現地で取材してきた。

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投じられた1球が捕手のミットに吸い込まれると、一拍置いて球審が大きなアクションとともに「ストライク」とコールする。その一瞬の間は、コンピューターから人へ伝達することによる時間差だろうか。

同リーグが今季途中から導入したロボット審判は、ボールの弾道を計測する「トラックマン」で判定を行い、無線イヤホンを通して球審に伝達されるというシステムで運用されている。

トラックマンからの判定をイヤホンで聞く球審(撮影・水次祥子)
トラックマンからの判定をイヤホンで聞く球審(撮影・水次祥子)

8チームで構成される同リーグでは、試合の行われる1日4球場すべてに大リーグ機構からトラックマンのオペレーターが派遣されている。「判定設備を見せてもらえませんか?」。ニューヨーク州ロングアイランドにある同リーグの球団ダックスの本拠地を訪れたときマイケル・ポラック広報にそう頼むと、ロボット審判担当者に話を聞くことはおろか、判定システムを見せてもらうこともできないという。球場の、人目のつかない閉ざされた一角で、ロボットによるストライクの判定が行われていた。

スタンドから試合を観戦した。ロボット審判といっても球審がホームプレートの後ろに立ってコールすることは従来と変わらず、イヤホンをしていることもスタンドからは見えない。試合開始前には場内アナウンスで新ルールの説明があるが、スタンドには気づいていないファンもいそうだ。

しかし試合が進むにつれて、何かが違うという感覚が湧いてくる。塁に出た走者がどんどん走る。投手はけん制をすることもなく、フリーパスで走らせる。走者が出さえすれば得点になりやすいというわけで、観戦したその試合も、得点がたくさん入った。「投手がけん制球を投げるときはプレートを外さなければならない」という新ルールの影響が鮮明に出た展開だった。

この他にも「捕手が後逸すればいつでも一塁盗塁ができる」「打者は3バントを失敗しても4ストライクまで打てる」「投手交代やケガの場合を除きマウンド訪問を禁止」「内野守備は二塁の両サイドに2人ずつ配備」「投手は回を終わらせるか少なくとも打者3人と対戦」「ハーフスイングの判定を緩くする」「攻守交代の間隔は2分5秒から1分45秒に短縮」「ベース直径を38から46センチに拡大」のルールが同リーグで実験中。中には野球というゲームのあり方を大きく変えるルールもあり、リーグは賛否両論で揺れている。(つづく)【水次祥子】