侍ジャパン24人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる連載「侍の宝刀」。チームのリーダー役を期待される巨人坂本勇人内野手(32)は“野球界の伝道師”を全うする。球界を代表する選手が集うチームで世界最高峰のプレー、勝負を世界中に発信する。野球の楽しさ、魅力を思う存分に表現する。

練習中、坂本(右)と言葉を交わす稲葉監督(撮影・垰建太)
練習中、坂本(右)と言葉を交わす稲葉監督(撮影・垰建太)

五輪の舞台に立つ喜びを次世代へとつなぐ。坂本の宝刀は「野球を楽しむ姿」だ。1月の自主トレ、2月のキャンプ、ペナントレースを戦い抜き、ポストシーズンを目指す。プロ入り15年目。立場や状況は、変化している。過酷なトレーニングで体をいじめ抜き、開幕後は伝統球団の生え抜きとして勝負の重圧を人一倍、背負ってきた。でもグラウンド上で険しい顔は見せない。

そんな坂本が悲しみに暮れた。昨季はコロナ禍で開幕が6月中旬までずれこみ、無観客での開催が続いた。7月に入りようやくスタンドにファンが戻ってきた。同28日の本拠地・東京ドームでの初めての有観客試合でソロ弾でファンを迎え入れた。球団関係者によると有観客開催の一報に涙を流したという。それだけ、坂本にとって、プロ野球選手にとってファンの存在は大きい。

コロナ禍前の東京ドームの試合前に心温まるシーンが、毎試合繰り返されていた。シートノック前にエキサイティングシートにグラブを持った子どもと、坂本がキャッチボールをする。ニコニコと話しかけながら、1球、1球、丁寧にグラブに収まるように投げる。子どもたちにとっては、一生の思い出になり、同時に野球を始める、野球を楽しむ、きっかけになる。

味方投手が打ち込まれればマウンドに駆け寄り、ここでもニコッと笑って、お尻をポンとたたく。ボールを捕る、ボールを投げるという単純動作だけでも野球を楽しむ野球少年のように映る。仲間とともに白球を追う。その姿は少年時代と何一つ変わらない。だから「自分が打った、打たないで言えば、もちろん打った方が貢献できる。そのつもりでいるけど、いい結果、悪い結果、どういう結果が出ようとチームが勝てばいいという気持ちです。その状況状況で自分がやれることというのをしっかりやってチームの力になれたらいいなと思っています」。

坂本のWBC、プレミア12成績
坂本のWBC、プレミア12成績

今大会も無観客での開催が決まった。「ファンのみなさんの応援が大きな力になるので無観客になり残念です」と胸の内を明かした。一方で「この状況の中で五輪が開催されて出場できることに感謝して精いっぱいプレーします。テレビの前で応援してくださるファンのみなさんへいい報告ができるように頑張ります」と誓った。

28日のドミニカ共和国戦から金メダルへの戦いが始まる。球界を代表する侍ジャパン24人の戦士たちの先頭で坂本が「野球」を表現する。【為田聡史】

(この項おわり)