野球の日本代表が、東京オリンピック(五輪)で世界の国を相手に戦っている。現役バリバリのメジャーリーガーはいなくても、総体的に見れば、米国、ドミニカ共和国の選手は力勝負では、日本の選手より一枚上だろう。

3日、タイガース戦の5回途中から登板し、1回を無安打無失点だったレッドソックス沢村(ロイター)
3日、タイガース戦の5回途中から登板し、1回を無安打無失点だったレッドソックス沢村(ロイター)

力勝負の本場のメジャーに目を向ければ、レッドソックスに移籍した沢村拓一が、1年目から持ち場で力を発揮している。分かっていても、ファウルや凡打になる真っすぐが最大の魅力で、さらには150キロを超えるスプリットも投げる。今の結果に何ら不思議はないが、確かな根拠がいくつかある。

メカニック的には、軸の移動がしっかりできていて、リリースの瞬間、指先に全部の力が伝わっている。リズムも良くなっているし、余分なことは考えず、投げることに集中できている証しだろう。

巨人に在籍していた昨年7月、制球に苦しむ姿に「ないものねだりをして、自分の持ち味を忘れていないか」とこの連載で書いた。飛びぬけたスピード、球の力があるのに、うまく打ち取ろうとする意識が見え、スプリットを多めに投げたり、コースを狙いすぎて、自分で自分を苦しめているように感じた。

ルーキー時代の11年に出会った彼は、「何が何でも打ち取る」気迫が前面に出る投手だった。キャリアを重ねる中で、周囲からいろいろと言われ、迷いが生じることもあったのだろう。ベンチや自分と戦っているように見えたが、今の投球は「打てるもんなら、打ってみろ」の原点に返っている。

今のメジャーの打者には、沢村のボールは厄介だろう。打者の特徴を見ると、背中を真っすぐにして構え、それを崩さずに平行移動しながら、アッパースイングの軌道で振ってくる。下から振り上げるスイングでは、スピードのある高い球を打つのは難しく、沢村の高めの球は非常に有効となる。

打者の仕掛けも、沢村のスタイルにプラスとなる。日本ではファーストストライクの難しい球は振らず、ボールを選球する。コントロールがアバウトな沢村なら顕著だったが、メジャーはどんどん振ってくる。ボール先行の状況でも同じだが、沢村も置きにいかず、しっかり腕を振って、力のあるボールを投げているから、打者も凡打する。

今の沢村を見て、野球において、メンタルは非常に重要だと再認識した。細かい配球よりも、力と力、打たれるか打ち取るかの勝負を楽しんでいるように見える。これが本当の沢村の姿なのだろう。日本人投手がメジャーで力勝負する姿は称賛に値する。(つづく)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団で投手コーチを務め、13年からロッテで指導。17年から19年まで再び巨人でコーチを務めた。