都心から最も近い道の駅「いちかわ」。千葉の特産・落花生が売られ、のどかな雰囲気が漂う。そのすぐ隣に日本で民間企業初のスポーツ科学R&Dセンター「ネクストベース・アスリートラボ」が誕生した。ボールや人の動きを可視化し、科学的データを活用して選手のパフォーマンス向上を図る最先端の高度計測施設。「すべてのアスリートに、サイエンスを」と理念を掲げ、選手やチームに対して科学的アプローチを積極的に取り入れている。

千葉県市川市に開設された「ネクストベース・アスリートラボ」
千葉県市川市に開設された「ネクストベース・アスリートラボ」

敷地面積約340平方メートルと米国と比べると小さな施設の中に、高性能の最新機器がそろう。米シアトルの科学的トレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」の日本版とも言えるが、ネクストベース社取締役の木下博之氏は「ドライブラインにも劣らない貢献が選手のために果たせると思っています」と胸を張る。オリンピック代表選手らがトレーニングを行う国立スポーツ科学センターの元研究員で国学院大人間開発学部の神事努准教授を中心に、トップレベルのアナリストたちが高度な分析を行う。例えば投手ではリリースポイント、指先の先端までどのように力が伝わっているかなどを細かく数値で出せるという。

それを可能にするのが、高性能テクノロジーだ。「光学式モーショーンキャプチャーシステム」は、世界一の精度を誇るVICON(バイコン)社製カメラが14台。上下左右から選手の動作を撮影し、あらゆる解析を行う。秒間1000コマで高速な動きにも対応。筋肉や靱帯(じんたい)など身体の内部まで確認ができる超音波診断装置も設置されている。また、人工マウンドの下には「フォースプレート」と呼ばれる機器が埋め込まれ、ステップ時に地面から得られるパワー(地面反力)を測定。日本球界でも急速に普及しているラプソードにより、球速や回転数、変化量などを計測し、多角的な分析が可能となっている。

国内では大学などで最新の測定機器を備えた施設があるが、研究メインで利用されるため一般人のアクセスは難しい。「ネクストベース・アスリートラボ」は、39試合連続無失点の日本記録をマークした西武の平良海馬投手(23)らプロ選手が利用している一方で、ジュニア層からトップアマの選手まで幅広く対応が可能だという。科学的データを高度に取得することで、野球の見方や楽しみ方に変化が加わり、選手の育成やケガの予防にも客観的データを用いる-。科学とスポーツを組み合わせた新しい価値観は、日本でも転換期を迎えている。【斎藤庸裕】(つづく)