WBCに挑む侍ジャパンのメンバー30人が決定した。連載「侍の宝刀」で、30人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる。

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金メダルを獲得した東京オリンピック(五輪)決勝、歓喜の輪の中心に広島栗林良吏投手(26)がいた。社会人野球の経験は、一発勝負の国際大会に生きる。五輪では全5試合に登板して2勝3セーブ。全勝利に貢献した。WBCでも勝利につなぐ役割を期待される広島の守護神は、自身の最大の武器を「フォーク」と自負する。

「誰かと比べるのは難しいですけど、この2年間フォークボールに頼って戦ってきたので、一番の武器はフォークボールだと思っています」

ブルペンで投球練習をする栗林(撮影・菅敏)
ブルペンで投球練習をする栗林(撮影・菅敏)

宝刀を磨き、野球人生を切り開いてきた。名城大で元中日の山内壮馬氏から握りを教わり、トヨタ自動車ではリリース時に手首を固定したまま投じる感覚を覚えた。「手首が負けて(高めに)ふかすことが多くなっていたので、それをなくそうとしたら良くなった。感覚的には、“抜く”というよりも、“飛ばす”」。真っすぐと同じ軌道から落ちる武器を駆使して、社会人NO・1投手に成長。プロでもストライクゾーンに落としてカウント球としても使うなど、進化を続ける。

もちろん、フォークだけではない。平均球速アップに取り組む最速154キロの力強い直球に、カーブとカットボールも高精度で操ることができる。ピンチにも動じない精神力が安定感を支えている。与四球は1年目の28個から15個と激減。制球力も向上している。新人から2年連続30セーブはDeNA山崎以来、史上2人目。通算防御率1・16という安定感を誇り、2年続けて奪三振率10以上、被打率は1割3分台。本塁打はプロで1本しか打たれていない。

栗林の主な国際大会成績
栗林の主な国際大会成績

WBC球への適応には改善の余地を残しつつも、一定の手応えを得た。8日に初めて打者を相手に投球。西川に内角直球を狙い打ちされて1発を浴びたものの、計14人の打者に安打性3本に抑えた。フォークで末包を空振り三振、新外国人デビッドソンから見逃し三振を奪った。「もう違和感なく普通に投げきれているので、自分の中で全然もう大丈夫なのかなと思います」。春季キャンプではWBC球と同じ仕様の公式球を使うメジャーで実績を残した黒田球団アドバイザーから助言をもらい、侍合宿を前にきっちりと調整してみせた。加えて、カットボールが大きく変化する予想外の収穫もあった。

米国では投じる投手が少ないフォークは、国際舞台で大きな武器となるはずだ。「捕手が要求した球に応えられるよう、どの球も自信を持って投げたい」。伝家の宝刀を携えて、再び世界一を目指す。【前原淳】