第96回選抜高校野球大会(甲子園)が、18日に開幕する。8日に実施される組み合わせ抽選会を前に、「シン時代高校野球」と題し、高校野球の「今」を4つのテーマでお届けする。

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多様性の時代、高校野球に新たな風を吹き込む高校がある。今春センバツ出場の中央学院(千葉)は「恋愛オーケー」「シーズンオフは週休2日」など、強豪校の常識を覆す取り組みで、心も育みながら力をつけ結果を出している。

練習後の寮では、風呂あがりの選手たちが、鏡の前でドライヤーでぬれた髪を乾かしていた。お気に入りのシャンプーとトリートメントに、真ん中の分け目を気にするしぐさ。22年2月から髪形を自由にした相馬幸樹監督(44)は「髪形はちょっとカッコよくなったかな。オシャレにして欲しい。そうじゃなきゃ丸刈りでいいでしょ?」と選手たちを見つめた。

理髪店、美容院、ショッピング。行動範囲が広がれば、応援してくれる人も増える。恋愛もそのひとつ。強豪校の多くが「野球に集中するため」に恋愛を禁止にする中、相馬監督の考えは違う。「選手のモチベーション、エネルギーとなるひとつの要素。好きな人がいて、いい格好をしたい。『モテたい』と思うのは自然なこと」。そこには最低限のルールはある。SNSへの写真投稿、女子マネジャーとの恋愛は禁止。それを守った上での恋愛だ。

マイナス面も承知している。彼女に依存し、部活に集中できなくなることもある。相馬監督も、恋愛で失敗する選手を何人も見てきた。「そこまでの選手ということ。人への接し方も勉強のひとつ。それで傷つくことも大事な経験だと思います。こんな自分じゃダメだとか、頑張ってレギュラーになろうとか。選手の心理はプラスに働く」。優先順位を見極め、彼女の存在を精神的支えに活力に変える。彼女は選手が成長するための一番のサポーターになり得るというわけだ。

昨秋から新たな取り組みも始めた。シーズンオフ期間(12~2月)は、木曜日と日曜日の週休2日制にした。「疲れている状態ではやる気が起きないですよね。練習を頑張る日じゃなく、やる気がある日を増やしたかったんです」。誰しも「明日休みだ!」と思えば、もうひと踏ん張りできた覚えはないだろうか。「練習量をやらせるには、休ませないと体が動かない。心もついてこないですよ」。いかに生産性をあげるか。野球が最優先。それ以外は普通の高校生でいい。

ひと昔前の高校野球なら「恋愛? ヘアスタイル? そんな時間があったら練習しろ」といった声が聞こえてきてもおかしくはない。今でも、強豪校なら分刻みの寮生活に夜間練習の日々を送るのが大半だろう。時間の使い方はまったく違うように見えるが、野球に懸ける思いを、相馬監督は「変わらないでしょ」と一笑に付した。中央学院の練習に目を移すと選手たちはキビキビとした動きに厳しい練習。自分を追い込んでいる。「野球でのストレスはかけたい。でも、生活面でのストレスはかけたくないんです」。より高い目標に向かうために、心をコントロールしている。

現在、2年生の約半分は彼女がいる。「2日休みがあるので、1日は彼女と遊んでもう1日は休養にあてる。時間の使い方ができるようになりました。センバツも応援に来てくれるので、力が入ります!」「ストレスがないから、野球がめっちゃ楽しいです」。みんな、楽しそうに話す。そこには充実した部活動を過ごす高校生の姿があった。

センバツで悲願の甲子園初勝利。そして優勝を目指し、このスタイルを正解にする。相馬監督は「多様性の時代。ウチみたいな考え方もいい。応援してくれる人が増えて、野球を始める人、続ける人が増えると思うんです」と、未来を見つめている。【保坂淑子】

1月27日、カメラの前でポーズを決める中央学院の選手たち
1月27日、カメラの前でポーズを決める中央学院の選手たち