全国高校野球選手権は、沖縄尚学の初優勝で幕を閉じた。酷暑の甲子園で球児を追いかけた担当記者が、書き残したエピソードを紹介する

   ◇   ◇   ◇   

決勝戦後。準優勝となった日大三(西東京)の宿舎で、最後のミーティングの取材をさせていただいた。三木有造監督(51)から選手たちへ。時折声を詰まらせながら、決勝戦の戦い、これまでの成長を語りかけた。新チームからともに歩んだ1年が詰まった、感動的なミーティングだった。

実はこのミーティングには続きがあった。三木監督に続き、小倉全由前監督(68)が選手たちの前に立ち、話を始めた。「去年の秋から見ていて、正直言って、ここまでくるチームじゃないと思っていた。でもな、みんなが頑張ったらチームが変わった。準優勝だ。胸張らなきゃダメ。悔しさをもって人間は強くなるんだよ」。選手を心からたたえる言葉の後に、続けた。

「それとな近藤。熱くなるのはわかる。でもな、いいか、あれを続けちゃダメだ」

小倉前監督の言葉に、力がこもった。

それは決勝戦、1点ビハインドで迎えた7回2死一塁。エース近藤優樹投手(3年)が投じた1球は、打者のグリップに当たり捕手のミットに収まったかに見えた。球審は三振のジャッジをしたが、その後、打者のアピールで死球の判定に変わった。

ベンチに戻りかけた近藤だったが、判定が変わると何度も首を横に振り、右手で「違う、違う」というジェスチャー。苦笑いを浮かべてマウンドに戻ると、ロジンをパンッ、とマウンドに投げつけて怒りをあらわにした。

小倉前監督は続けた。

「あの態度はダメ! オマエが頑張ってここまできた。それは自信をもっていい。でもな、三高の野球ってもんがあるんだ。三木監督がみんなをいいチームにして、ここまできたんだ。男はな(胸に手を当て)ここに止めておかなきゃいけないもんがあるんだ。それが男! 我慢が必要だ。今回の負けを自分の力にするんだ。オマエはそれをやれる男だから言っているんだぞ」

8月23日、決勝戦に敗れ宿舎に戻り、三木有造監督の話を涙ながらに聞く日大三・近藤
8月23日、決勝戦に敗れ宿舎に戻り、三木有造監督の話を涙ながらに聞く日大三・近藤

近藤は涙をポロポロとこぼしながら、小倉前監督の言葉を聞いていた。近藤の涙には、どんな気持ちが込められていたのか。「小倉さんに言われた時は、そうだよなぁ…という気持ちだったんです」。小、中学校時代からマウンドで感情を出してしまい、注意されることが度々あった。日大三入学後は言葉遣いから礼儀を学び、改善。今夏「マウンドで相手の応援歌を口ずさむ」と注目されたのも、実は感情をコントロールするために始めたこと。「変わろうとしていたのに、変われなかった…」。負けたことはもちろん、変われなかった自分に腹がたった。

それと同時に、感謝の気持ちで胸が熱くなった。

「叱ってもらえて、自分の弱さに気が付いた。本当にありがたい。自分はまだ成長できるチャンスがある。小倉さんを通して、野球の神様が与えてくれたと思うんです」

結果で選手をたたえるだけでは終わらないのが、日大三野球。叱るべき時は叱る。それは熱意と愛情があってこその指導だ。

「こうして怒ってもらえるのは、自分たちを思ってくれているから。自分は幸せ者だなぁと思いました」

行動を悔い改め、次のステージでの成長を誓った。

決勝翌日、チームが帰寮すると、出迎えた小倉前監督に、近藤が歩み寄った。

近藤 すいません。

小倉前監督 キツかったか? 言いすぎたか?

近藤 そんなことないです。日大三はマナーがいいと言われている中で、印象を悪くして…すいませんでした。

深々と下げた頭を上げると、小倉前監督は笑顔で応えてくれた。「優しい笑顔でした」。この笑顔は一生忘れない。大舞台で教えてくれたことを胸に、大学で野球を続ける。【保坂淑子】

(この項終わり)