全国高校野球選手権大会が100回大会を迎える今年夏までの長期連載「野球の国から 高校野球編」。名物監督の信念やそれを形づくる原点に迫る「監督シリーズ」の第9弾は、広陵(広島)を率いる中井哲之さん(55)です。

 曲がったことが大嫌いで、一本気な性格。そのハートの熱さから、時として衝突もありましたが、人望の厚さも人一倍です。

 人情味あふれる中井さんの物語を、全5回でお送りします。

 2月12日から16日の日刊スポーツ紙面でお楽しみください。

 ニッカン・コムでは、連載を担当した記者の「取材後記」を掲載します。

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 連載の中で中井監督と選手の関係を「親子の絆のようなつながり」と書かせてもらった。中井監督が「お父さん」で、選手が「子ども」。そうなると中井監督の奥様の由美さんは「お母さん」になるだろうか。中井監督から由美さんの話を聞いていると、そんな温かさを感じた。

 由美さんは子どもの日、クリスマス、バレンタインには必ず、選手全員にお菓子を差し入れる。バレンタインには3年生全員に、一言ずつメッセージも添える。広陵野球部の部員は100人を超えるから、ものすごい量だ。そんな由美さんを選手も慕い、OBが連絡してくることもしばしばだという。

 中井監督と由美さんの最初の出会いも、おふたりの人柄が伝わるお話だった。27歳の4月に就任したばかりの中井監督は、その年の夏の広島大会2回戦で敗れる。試合後、テレビ局のリポーターとしてインタビューに来たのが由美さんだった。「今のお気持ちはどうですか」と聞く由美さんに、まだ若く敗戦直後ということもあり泣いていた中井監督は「勘弁してください」と取り合うことが出来なかった。

 その翌日。中井監督が外出し学校へ戻ると、机の上にあふれんばかりの大量のクッキーがあった。選手全員に行き渡るほどの量。由美さんが届けに来たと聞いた中井監督は、お礼の電話をする。すると由美さんはこう答えた。

 「私たちはこれ(インタビュー)が仕事なんです。一番感情があふれている時に聞くのが仕事で、そういう人間なわけではないんです」

 話を聞いた中井監督は、真っすぐ人だと感じたと言う。

 監督をしていたら平日は夜遅くまで練習、土日には試合があるのが日常。ほぼ選手につきっきりの生活だ。それでも由美さんは「お金で買えないものがたくさんあるから、その生き方があなたに合ってるんじゃないの。そういうものがいっぱいあるから私は幸せ」と話していたと言う。

 そんな「お母さん」の温かい目にも、広陵野球部は見守られている。【磯綾乃】