高知県高野連が実施した全国初の試みは賛否の声を集めた。16年6月。加盟34校(当時)の野球部全員に、夏の高知大会決勝戦を球場で観戦させると発表した。地方は野球人口の減少という大きな問題を抱えている。その狙いとその後の動向は? 県高野連の山崎正明理事長(56)に聞いた。

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 高知県高野連は16年6月に全国初となる試みを発表した。県内加盟校の野球部員全員に夏の高知大会決勝戦を観戦させるというものだ。同年1月の監督会議や定時総会で賛同を得て、各学校長に協力を要請していた。しかし一部報道で「強制」の文字が躍った。「強制とはなんだ!」と批判された。山崎は苦笑まじりに当時を振り返る。

 山崎 こちらが提案しましたが、「いいね」と加盟校の皆さんも賛同してくれた。引退した3年生は希望者だけ。1、2年生は新チームのスタート段階で観戦してもらうことでモチベーションを上げてもらおうということ。強制じゃないんですよ。

 きっかけは激闘にあった。近年は明徳義塾と高知がしのぎを削っているが、11年から5年連続でこの2校が決勝戦で1点差の接戦を演じている。「すさまじい試合で、私も鳥肌が立った。でも観客は少ない。球場でしか分からないことがある。まずは子どもたちに、すごいゲームをしていることを知ってほしかった」。県高野連は規模が小さく、予算が限られている。そのため移動は実費で各校や選手に負担をかけている。せめて、と決勝戦当日に、各校の主将を大会本部に呼び、激励の言葉とともに新球1ダースをプレゼントしている。実施後は、抗議電話は全くないという。2年目の昨夏は観戦する選手の反応も良くなった。1球ごとにスタンドが沸き、盛り上がりを見せている。

 地方は少子化の影響をもろに受け、野球人口の減少という問題に直面している。高知はその先端をいく。97年には高岡高宇佐分校と高知海洋が「宇佐海洋」として、連合チームを結成。全国で初めて承認され、夏の大会に出場した。今は郊外だけでなく、高知市内の高校も統廃合の対象になっている。山崎は強い危機感を抱く。

 山崎 とにかく、いろんな課題に直面している状態。そのまま放置しておくことの怖さがある。

 現状に風穴をあけようと、理事長就任後は、毎年4月の定時総会で最低3つは新しい議題を提案しようと呼びかけてきた。

 17年1月には全国に先駆けて、指導者による「体罰根絶宣言」を採択した。「子どもに教える側である指導者の不祥事は絶対に避けたい」。県高野連の名誉職的な位置づけだった顧問も、球界発展のために活用。高知商の元監督・谷脇一夫や高知の元監督・岡本道雄といった全国優勝経験者らに就任を要請。積極的に助言をもらっている。4月には「白球会」を立ち上げた。中学や大学と連携しながら、底辺拡大に力を注ぐ。

 決勝戦の観戦を今後も継続する方針だ。

 山崎 肌で感じる臨場感がある。野球って、すごいな、というのを実感してもらいたい。若い世代が味わって、次の世代に伝える。それが一番の底辺拡大だと思う。

 高知の試みがどんな花を咲かせるのか。地道な取り組みが実を結ぶ日を待ちたい。(敬称略)

【田口真一郎】

県内の活性化のため、改革を断行する高知県高野連の山崎理事長(撮影・田口真一郎)
県内の活性化のため、改革を断行する高知県高野連の山崎理事長(撮影・田口真一郎)