がばい旋風。それは2007年(平19)夏の甲子園、佐賀北が初優勝を遂げたときの言葉だ。広陵(広島)との決勝、0-4で迎えた8回裏。押し出しで1点を返すと満塁弾で一気に大逆転。奇跡を起こした選手が今、地元の高校の監督に就任。指導者として再び甲子園の舞台に立とうとしている。

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 あれから11年。佐賀北の監督として選手を見つめる29歳の久保貴大の表情は、激戦を勝ち抜いて日焼けしたあの夏と同じだった。第89回の夏の甲子園で「がばい旋風」といわれ、優勝した時に「胴上げ投手」となった右腕は昨秋、母校の監督となった。練習中、時折大声で指導する姿は、強豪チームと立ち向かった姿と重なる。

 久保 あの優勝は勢いに乗せられて、甲子園で戦いながら成長していった。今は指導する立場となって、優勝したメンバーというプレッシャーは気にしないようにしているが、ずっと言われ続けているんで、そのつもりでやっている。

 佐賀北を卒業後、筑波大から社会人野球を経験したが「監督として甲子園を目指したい」と佐賀大大学院で教職免許を取った。今年の夏が最初の夏となる。

 久保 あの時のメンバーで佐賀にいる人たちが、たまにノックしてくれたり手伝ってくれる。まだ自分も何も分からない状態なので助かります。

 熱い絆でつながっているメンバーのサポートも受けている。その半面、強力な「ライバル」もいる。同じ29歳。かつてともに汗を流し、喜びを分かち合った間柄だ。久保同様に昨秋、杵島商の部長から監督に就任したのは、佐賀北マネジャーだった真崎貴史。あの決勝で逆転満塁弾を放った副島浩史は、念願でもあった教員試験に合格。今年4月から唐津工に赴任し、野球部副部長になった。

 副島 練習が楽しくてしかたないが、今は自分のことで精いっぱい。久保についてはライバルとかじゃなくて、早く自分も監督になって追いつきたいです。

 久保 すごく仲のいい友達だったけど、野球観は違っていた。戦っていくことになるけど、やっぱり負けたくない。

 佐賀北の前には、古豪の佐賀商が94年夏に優勝を果たしていた。決勝は樟南(鹿児島)相手に満塁弾で決着がついた。2年生投手峯謙介を擁して、あれよあれよと勝ち進んだ。佐賀商、佐賀北ともに劇的勝利が象徴的だが、決して偶然ではなかった。佐賀北優勝時の部長で、51歳の現在は佐賀県高野連理事長の吉富寿泰が振り返る。

 吉富 きっちりとデータを取って、選手らに対策を取らせていた。公立校が全国の強豪に勝つために我々も頭を使った。そして選手らには時間はかかったが「自主性」を重んじる指導をしてきた。最後は自分で考えてプレーができるように。佐賀商にできたんだから、僕らにもできるという気持ちにさせた。

 同じ佐賀の公立校の先輩たちが築いた金字塔に追いつけ追い越せと、佐賀北ナインが努力を重ねた。

 久保 監督として、またあの甲子園に立ちたい。大きな夢です。

 佐賀の公立校に流れる闘志は、佐賀北全国V経験の指導者が引き継ぎ、これから佐賀の球児に注ぎこまれる。(敬称略)【浦田由紀夫】