長崎県勢初の甲子園優勝を果たしたのは、北松浦郡佐々町の清峰(県立、旧北松南)だった。09年センバツでエース今村猛(現広島)を軸に勝ち上がり、決勝では花巻東(岩手)を1-0で下した。ただ、同年夏は長崎大会3試合目で敗れている。甲子園へ戻ることができなかったあの夏から9年。今年も清峰に挑戦の季節がやってきた。

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 長崎県営野球場(通称ビッグN)が沸いた。今年3月4日にプロ野球の西武-広島のオープン戦が行われ、長崎県人の投手2人がそろい踏みした。広島の今村猛と大瀬良大地。2人がビッグNで同じ試合に登板したのは9年ぶり。観衆は覚えていた。前回、あの時の2人は高校生で敵味方、エース同士の対決だったことを。

 あの時…09年7月22日の長崎大会準々決勝で今村の清峰と、大瀬良の長崎日大が対戦した。その春センバツで優勝した清峰に、甲子園出場では先輩格の長崎日大が挑んだ格好だが、結果は清峰の1-3惜敗。2回戦から登場した清峰の夏が3試合目で終わる。春の甲子園優勝校が夏の地方大会で散る波乱となった。

 春の甲子園の覇者は、01年から07年まで7年続けて夏の甲子園へ戻っていた。08年の沖縄尚学と09年の清峰は地方大会敗退。10年から昨年まで8年間では、11年の東海大相模が神奈川大会で涙をのんだ以外は、大阪桐蔭の2度を含む7度が夏も甲子園出場。つまり、01年以降昨年までの17年間で、夏の甲子園を逃したセンバツ王者は3校と少ない。

 沖縄尚学と東海大相模は、その後また甲子園出場をつかんだ。清峰だけが甲子園から遠ざかったままだ。だが、監督の井手英介(38)は「甲子園を期待されているチームだということは分かっています」と、自分たちが進む道を鮮明にイメージしている。昨年夏は11年以来6年ぶりに長崎大会決勝へ進出。同じ「佐世保地区」の波佐見(県立、東彼杵郡波佐見町)と対戦し、延長戦の末に敗れた。

 佐々町は県北部に位置し、周辺を佐世保市に囲まれている。人口約1万4000人。過去に佐世保市との合併案もあったが、現在も単独町制を続ける。清峰は06年センバツで初めて決勝に臨み、横浜(神奈川)に0-21と大敗。現在は山梨学院監督の吉田洸二(49)が指揮を執り、その3年後に2度目の甲子園決勝で栄冠に輝いた。11年に佐々町が発行した「町制施行70周年記念長崎県佐々町町勢要覧」の「佐々町70年のあゆみ」では、清峰のセンバツ優勝が大きく取り上げられている。野球部が勝ち上がると町は沸く。

 清峰は今春の県大会が2戦目、夏の前哨戦といわれるNHK杯は初戦で敗れた。野球部長で県高野連副理事長の岡裕之(47)はチームの現状を「県の57校中26番目くらいでしょうか」と謙遜する。しかし、複数の投手を中心にした守り、昨年夏の決勝経験選手を軸にした攻撃をレベルアップさせ、7月の熱い戦いに突き進む。

 県で甲子園出場経験のある16校中15番目の「新顔」ながら、清峰の甲子園勝利数は春夏合わせ13勝(4敗、5度出場)で県のトップになった。長崎市内の古豪・海星の12勝(22敗、22度出場)と諫早市内の強豪・長崎日大の12勝(11敗、11度出場)が2位タイ。ただ、海星、長崎日大はともに夏通算10勝で、清峰の同4勝はまだ及ばない。県勢の夏の甲子園最高成績は4強。さらに上を目指し、清峰の「夏物語」が佳境に入るのは、これからだ。(敬称略)

【宇佐見英治】

 ◆長崎の夏甲子園 通算37勝63敗。優勝0回、準V0回。最多出場=海星17回。