箕島(和歌山)との延長18回の激闘から35年後、星稜(石川)はまた好敵手に巡り合った。2014年7月27日の第96回全国高校野球選手権石川大会決勝・星稜-小松大谷。0-8で迎えた9回裏、星稜は9点を奪ってサヨナラ勝ちし、2年連続17度目の出場を決めた。地方大会史を塗り替えた夏に迫る。

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 薄い黄色のユニホームには、球史を動かす力が宿る。箕島と死闘を演じ、松井秀喜(元ヤンキース)を世に送り出した星稜が、14年の夏もまさかの夏にした。8点差の逆転サヨナラ勝ちは、決勝史上最大の得点差だった。

 「意地ではない。ただ、このままでは終われない。そんな気持ちはありました」と語ったのは、当時の星稜エースで現ロッテの岩下大輝。「正直、思い出したくはない。雰囲気…。球場の雰囲気にのみ込まれてしまった。流れを変えることができなかった」と振り返ったのは、当時の小松大谷エースで現ソフトバンクの山下亜文。5回を終えて8-0。決勝でなければ7回コールドで終わっていた。

 9回。序盤の大量失点で途中降板した岩下が、再びマウンドに立った。

 岩下 監督に言われなくても、マウンドに行っていたと思います。交代するぞと言われなくても、審判に自分で言おうかという感じ。最後だけ行かせてください! って気持ちでした。

 高校最後になるかもしれないイニングを、岩下は3者連続三振で投げ終えた。2番から始まる9回裏の攻撃を前に、ベンチに戻ったナインを集め、監督の林和成は「4番の村上に2回まわすぞ」と呼び掛けた。それは魔法の言葉になった。先頭の代打、主将の村中健哉が四球を選ぶ。反撃が始まった。

 続く代打、今村春輝の適時三塁打で1-8。4番・村上千馬の右安打で2-8。星稜の追い上げを受け止める小松大谷・山下に異変が起きていた。

 山下 9回、マウンドで両足の太もも、ふくらはぎがつって投げられなくなっていた。疲れがあったんでしょうけど。僕は足がつるクセがあって、準決勝も打席で足がつった。それで途中降板していたんです。

 山下は8回まで星稜打線をわずか2安打に抑えていた。代表まで残り1イニングで、足が言うことを聞かなくなった。山下降板後、星稜の猛攻は続く。佐竹海音の振り逃げで無死二、三塁となり、梁瀬彪慶の左安打で4-8。さらに岩下が左翼場外へ大アーチを放った。点差は2点となった。

 岩下 アウトになりたくなかった。いい流れで来てるのに、ここで1アウトにされたらやばいなという気持ちで打席に入ったら、たまたまホームラン。通算7本目。あれが最後のホームランでした。

 岩下は前年秋まで4番打者。だが「7番に替えてください」と林監督に訴え、3年春の公式戦から新打順を任された。長打を打ちたい気持ちが強すぎて、三塁ゴロを量産する自分の打撃にストレスがたまっていた。7番で三塁ゴロを打っても「ピッチング頑張ります」と気持ちを切り替えられた。だが高校最後になるかもしれなかった小松大谷戦9回の打席。旧4番は、まさに4番の仕事をした。

 大逆転への流れが、球場を支配していく。1死を取られたが、9番・横山翔大と1番・谷川刀麻の連打などで1死一、三塁。村中の遊ゴロで7-8。今村が四球でつなぎ2死一、二塁から、村上のこの回2本目の適時打で8-8。なおも2死一、三塁で、佐竹の打球が左翼手の頭上を越えた。星稜がサヨナラ勝ちした。(敬称略=つづく)【堀まどか】

 ◆石川の夏甲子園 通算36勝59敗。優勝0回、準V1回。最多出場=星稜18回。