阪神横田慎太郎外野手(21)にホームランが出ない。チームで1、2を競う長距離砲だけに、オープン戦、公式戦を通じて1本もフェンス越えがないのが不可解でならない。4月の半ばごろ、横田について掛布監督と話をしたことがある。同監督も首をかしげていた。

 「間違いなく長距離砲ですよ。でも、いまのままでは持ち味が消えてしまう。本人は現状で満足しているのかなあ。あのバッティングで満足しているようだと、ホームランは出ません。打ちにいくとき、右足をステップした時点で腰が引けてしまっている。あれではただ当てるだけのバッティングしかできません。彼の場合、足がありますからあの状態でもなんとかやっていますが、もっと、もっとスケールの大きいバッティングを心掛けてほしいですね」と一発が出ないことをかなり気にしていた。2軍落ち。現状では当然だろう。

 我々が抱くイメージと現実とのギャップがあまりにも大きすぎて生じた疑問だが、ただホームランが出ていないだけで、その他技術面などの成長度は開幕1軍に抜てきされたことが証明しているし、シーズン当初の目を見張る活躍はチームに若い力を注入。チームの活性化にひと役も、ふた役も貢献している。ある意味開幕当初の立役者的存在だったともいえるが、横田はアベレージヒッターではない。掛布監督も認めるホームランバッターだ。せっかくの大きな素材がしぼんでしまうのが怖い。着眼点はここだ。

 もちろん、ホームランだけが野球ではない。打ち損ないのヒットで、ボテボテの内野安打で勝利に貢献するケースもある。野球は団体競技だ。チームの勝利が最優先するスポーツ。横田はまだ若い。野球に対する考えは純粋だ。そこへ、開幕1軍に抜てきされた。憧れのひのき舞台に立てる。うれしい。気持ちはいやがうえにも高ぶる。真面目人間。思い込んだら邪念を捨てて突き進むタイプ。気持ちはよくわかる。おそらくチームの勝利を最優先にして、結果を残し、1軍での実績を築くことに猛進していたのだろう。一発が出ないジレンマは-。

 「いや、ホームランなど意識したことはありませんでした。内野安打でも何でもいい。結果を残すことだけ考えていました。それは、それで自分の足をアピールできるわけですから」

 本音だろう-。横田の話だが入団して初の1軍。余分なことを考える余裕などなかったようだ。若いがゆえで仕方のないことだが自分を見失わないのも大事なこと。昨年、ウエスタン・リーグ公式戦で9本のホームランを放っている。1試合3ホーマーという離れ業をもやってのけた一発屋。今回のファーム落ちは本来の姿を取り戻すためと見ているが、では、私がなぜ同選手のホームランにこだわるかというと、身体能力は高い。長打力に加え盗塁する走力を持っている。ここまで話せばもうおわかりだと思うが、ヤクルト山田、ソフトバンク柳田同様、3割、30ホーマー、30盗塁という“トリプルスリー”を達成する素材だからだ。

 今季3年目。実力はまだその域に達していない。現状で即答を求めるのは酷というものだが、ファーム落ちの原因は力不足。本人もそれはよくわかっている。ただ、力不足は力不足なりに実力的に数字的に片りんを見せておくべき年を迎えている。ウエスタンの試合ではあるが、5月26日の中日戦(ナゴヤ球場)で公式戦初ホーマーを放った。右中間への完璧な一発。

 横田「うれしいのは確かですが、そのあとの2打席の結果がよくなかったので、どちらかといえば反省の気持ちのが強いです。いまは、もう一度1軍へ上がることがテーマですが、今度上がるときはいままでとは違う横田を見せたいです」弱音は吐かない男。気合十分だ

 掛布監督「今回はちょっと時間がかかりますかねえ。でも、バッティング練習での形は悪くないんです。ゲームになると悪い面が出ていましたが、この前のホームランは完璧でした。一発が出たことだしもう大丈夫だと思いますよ」。掛布チルドレンの一人。こちらも気合がはいっている。

 横田は「神様」桧山の背番号24番をそのまま受け継いだ。今季の活躍をもっと素直に受け止めてやるべきかもしれないが、現実は厳しい。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)