元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。26回目は「日本シリーズ総括」です。

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 日本ハムが広島を下し、10年ぶり3度目の日本一で今シーズンが終わった。ファンもお互いに熱く、見どころも多かった。結果論になってしまうのは恐縮だが、今後に向けて、いい教材となると思われる。いろんな角度から今シリーズを振り返ってみたい。

 まず、全体の流れを変えたのは、第3戦の広島松山が中田の打球を後逸したプレーに尽きる。あのプレーから3つのミスが見えた。

【状況】1点ビハインドで迎えた日本ハムは2死一、二塁から中田が左翼にライナーを放つ。広島の左翼手松山は前進しスライディングキャッチを試みるもバウンドが合わず後逸。一時逆転となる2点適時打となった。

【3つのミス】

(1)左翼手を松山から守備固めに変えていなかった点。広島はレギュラーシーズンで終盤に守備固めを入れるケースもあったが、第3戦に関しては次の回に松山の打席が回ることを優先させたとコーチのコメントを見た。しかし、イニングの頭から変える必要はなくても、リードしている状況であればこそ、このまま1点差を守るために最悪2死一、二塁となった時点で変える必要があった。

(2)左翼手松山の判断ミスが痛かった。1点リードの場面、同点までならOKと言う気持ちの余裕が欲しかった。結果論だが、日本ハムの攻撃を1点で止めていれば9回に広島が1点取っていたので勝っていた。松山の勝ちたいという焦りが状況判断ミスにつながった。

(3)突っ込んで捕球にいった松山の気持ちは分からないでもない。が、あの場面で絶対、後逸してはいけない。ノーバウンドで捕球できなくてもボールの正面に入って、体の前で止めなければならなかった。第3戦を広島が落とさなければ4連勝で一気に日本シリーズを制していたであろうと思われる。

 次に監督采配で見えたもの。広島緒方監督は日本シリーズ開幕2連勝したため、シーズン通りの戦いでいけると、こだわりすぎた気がする。逆に日本ハム栗山監督はいきなり2連敗したことで好調な選手を最優先し、起用に関して変化することを怖がらなかったことが大きかったと思う。

 広島は初戦大谷を攻略し2試合は完璧な勝ち方だった。緒方監督は中継ぎ陣の調子が最高というわけでもなかったが、今村、ジャクソン、中崎にこだわりすぎて最後までシーズン通りの戦いをしてしまった。開幕2連戦がパーフェクトすぎて、最後は「勝利の方程式」へのこだわりが後手に回った格好となった。

 日本ハムは中継ぎを7投手起用したが、広島は5投手。福井、一岡らを使うことができなかった。調子の良しあしを優先させず、人に頼ってしまった。日本ハム・バースは、5試合に登板し6回2/3を無失点。シリーズ3勝と大当たり。起用したからこそバースの現在の好調ぶりと広島へ相性の良さをつかむことができた。

 栗山監督は連敗スタートで開き直った。選手の好不調の波を見ながら第3戦以降、岡、西川らバットの振れた選手を1番打者に起用したり、第5戦では先発加藤をあっさり2回途中でメンドーサに交代、第6戦でも先発増井を3イニングでスイッチしたり。守護神不在の中、試合途中の相手打者の左右に応じて中継ぎ起用。抑えは結果的にバース、宮西、谷元が日替わり守護神となった。

 大谷の負けを糧に、栗山監督はいろんなことを変化させながら日々ゲームに接していた。第6戦で仮に延長戦突入でも、先発完投能力のある吉川が控えていた。采配で動きながらも常に“保険”を懸けながら作戦を立てていた。相当な準備があったと思う。序盤2連敗で、シーズンと異なる選手起用についてもチーム内のコンセンサスが得やすく、采配がやりやすい環境となり、先手を打てたと思う。

 短期決戦だからといって選手がプレースタイルを変えることはない。栗山監督の采配に見えた、調子のいい選手を使う、そうでない選手は使わない、選手を出し入れしながら起用することが短期決戦の唯一の戦い方なのだと再認識させられた。調子が落ちている選手を使わない勇気も大事だと思った。

 最後に3つ。

 両チーム捕手がノーヒットという結果はちょっぴり寂しい。リードが良かったと称賛されるのは勝ったチームの捕手だけというのが私の現役時代に味わった持論。負けたら評価されるポイントはないからだ。古田氏や城島氏らかつて主軸を打った捕手もいる。守備の負担は大きいが、バットでも存在感をアピールしてほしい。

 2つ目。エラーの目立ったシリーズだった。大谷のサインミスで重盗を許した第1戦に始まり、鈴木誠のバントのサイン見逃しからのバントミス、第6戦ではレアードのトンネルに田中広輔の失策など広島が日本ハムを勝たせた感もある。

 来年はWBC開催年で国際試合で緊迫する場面が増える。一発のミスが命取りになる。両チームからも侍メンバーが選出されるだろうが大舞台になればなるほど冷静に。

 最後に。今年は広島の25年ぶりのリーグ制覇、DeNAの初CS、日本ハムの11・5ゲーム差からの大逆転リーグVと野球界も盛り上がった。地方球団の頂上決戦となったが、関東でも視聴率も良かったのでは。野球の面白さを多くの人に感じ取ってもらえたことが球界の発展につながる。12球団の監督、選手、スタッフ、フロントなどプロ野球を支えた人たち、そして野球を応援してくれたファンに感謝の意を表したい。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)