元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。27回目は「4タイプに分けられるFA選手(上)」です。

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 今オフ、FA宣言した選手の動向はファン、球界関係者にとっても気になる話題である。

 FA権を行使した選手は大きく基本4タイプに分けられると思う。

(1)夢追い型

 FA宣言前に在籍していた球団が弱すぎるため、優勝できないと判断した場合、どうしても優勝したいという思いで可能性の高いチームに移籍するケースだ。また、子供のころから、大ファンの球団があり、あのユニホームを着てみたいという場合もある。さらには、最後は地元で野球がやりたいと熱望する場合もある。米メジャーの大型契約よりも最後は広島のファンに恩を返したい気持ちが強く、現役最後を終えた黒田投手もこのカテゴリーか。サラリーマンが定年後、故郷に戻って過ごしたいという心境と通じる部分があるのかも知れない。

(2)出場機会優先型

 若手の台頭が著しく、チームがベテランから若手へのシフトチェンジを図る過渡期に起こる。チームが、多少の痛みを伴っても成長させるために若手を起用しそうな雰囲気がある、もしくは、レギュラーを剥奪されるケースだ。あおりを食らったFA選手は、当然ながら“十分やれる”自信もあり、同じポジションで選手層が薄く、出場機会に恵まれそうな球団を選んでいく場合だ。

(3)好待遇、高額年俸を求める金銭追求型

 何よりも高額年俸を移籍の最優先とするケース。選手がよく他球団の評価を聞きたいというが、評価とは、他球団が自分にいくら出してくれるのかを知りたいということだ。もちろん、プロ野球選手は「能力=年俸」の部分はある。ある程度求めるのはビジネス感覚としては当然かと思うが「青天井」で追求するタイプ。

(4)チーム愛最優先型

 所属チームが好きでユニホームを脱ぐ時は引退する時と考えている。評価や待遇以上にチームに何よりも愛着を感じている場合。


 過去には、Bクラスで低迷するチームからFA宣言し、優勝を争うチームに移籍した選手もいた。今オフ、西武から海外FA権を行使した岸孝之投手(31)の場合はどうだったか。

 岸は楽天に移籍し先日の入団会見で「僕が野球を始めたのはこの仙台。プロに入るまで支えてくださった方々に、成長した姿を見せたい。この地元に恩返しがしたいという強い気持ちがありました」と決断理由を明かした。来季年俸2億2500万円(推定)から始まる4年契約は、出来高次第で最大16億円に達するという報道があった。

 岸の場合、コメントを見ると(1)の夢追い型に該当。楽天側が(3)の金銭面でも納得いくものを提示したという格好になった。

 FA宣言した選手は(1)~(4)の項目から、移籍先を選ぶ基準にすると思われる。

 球団によってはFA宣言した場合、残留を認めない球団、宣言残留はありだがマネーゲームには参戦せず条件提示は変えないという球団、宣言残留ありの球団、など対応はさまざまだ。

 今年の4月18日。日本プロ野球選手会は、東京都内で日本野球機構(NPB)と事務折衝を行い、フリーエージェント(FA)権を行使しやすくするため、宣言前に他球団の話を聞けるよう制度の変更を訴えた。

 選手会の森事務局長は、球団が宣言後の残留を認めない方針を取るとFA権を利用しにくくなると指摘し「他球団の話を聞いて判断できる方が(制度が)使いやすい」と話した。

 NPBの選手関係委員長を務める広島の鈴木清明球団本部長は「他球団の話を聞くためにFAをするのだから」と難色を示した。

 森事務局長の「(制度が)使いやすい」とあるが、使いやすいかどうかは選手側だけの意見で、球団にはあまり関係がないと思う。

 資本主義社会で、FA宣言後の残留あり、再交渉もあり、そんな球団もあってもいいし、なくてもいい。

 ただ、個人的な意見としては、選手会のFA制変更の訴えは「甘え」ではないかと思う。他球団の“見積もり”を聞き、待遇面や金額提示が低かったから「やっぱり残ります」という話が通るのか否か。

 マネーゲームになれば、球団側は、年俸だけつり上がりメリットはない。通常、FA選手は宣言前に在籍していた球団から条件提示を聞き、他球団と交渉していくパターンが見られる。他球団の交渉席では、在籍球団の提示額が“たたき台”となり、後から交渉する球団ほど有利となるだろう。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)