7月の終わり、31日の午後7時を過ぎたところから、原稿のスタート。この時点で阪神は2点を先制。これで確信した。「勝ち確定」で、首位ヤクルトに3連勝。いつもなら、勝ちと負けの2通りを用意するのだが、いまの阪神にはその必要はない、と思っていた。

序盤でリードすれば、ほぼ逃げ切れる。とにかく投手陣が素晴らしい。先発(この夜のガンケルに不安要素はなし)、中継ぎ、抑え…。乱れのない歩調で、いよいよヤクルトを追い詰めていく。大借金を返済し、そこから貯蓄生活に入るが、その勢いがすごい。アッという間に貯金は「3」。ここまでヤクルトのひとり勝ちだったセ界をタイガースが激変させようとしている、と思っていた。

長いプロ野球の歴史で、巨人と阪神のせめぎあいは数多くあった。ところが昨年から様相は変わった。GとTではなく、SとTの絡みが続いている。昨年、阪神の優勝に待ったをかけたのがヤクルトで、結果、わずかの差でヤクルトがV。そして今年、開幕戦で大逆転負けを喫した相手がヤクルトで、阪神はとんでもない出遅れを食らった。

もはや独走…とされたペナントレース。そこから牙をむいたのが阪神で、今回3連勝ならゲーム差は「8」になっていた。残り試合を考えれば、絶望的な数字ではあるけど、ヤクルトの背中が見えてきたのは間違いない、と思っていた。

そんなTとSの絡みでいえば、あれから1年が過ぎた。2021年7月6日、神宮球場で事件は起きた。阪神の攻撃中、二塁走者の近本がまぎらわしい動きをした、とヤクルト村上がアピールした。

すると、ここからすさまじいことになった。三塁ベンチにいた監督の矢野ら首脳陣が、村上に向けて大声で怒鳴っていた。これまでなら、その肉声は放送にのらないが、いまはネットの情報がすごいから、「アホ、ボケ」など生々しい言葉の数々が拡散された。ネットでの反応は「まだ若い村上に、あれはない」「監督として品性に欠けるもの」と、矢野は悪者扱いされ、村上は勇気を出しての行動を「堂々として、立派だった」と、両極端な立場に立つことになった。

あれを機に、ヤクルトがジワリジワリと阪神を追い詰め、阪神はというと跳ね返す余力は残っておらず、ヤクルトはそのまま日本一に上り詰めたのである。

あれから1年。今回は阪神が追う番である。それも半端ない強さでの逆襲劇。いま12球団に最も強いのは阪神だし、ひょっとすれば…と大きな期待を持ってもいい状況だ。

でもヤクルトには、やっぱりこの若者がいる。そのすごみを7月29日のゲームで感じていた。この試合、大差がついた中盤、村上は阪神・西勇の前に投ゴロに打ち取られた。それでも彼は一塁に全力疾走し、さらに守備の連係が悪いとみるや、速度をさらにアップし、一塁に駆け込んだ。

判定はアウト。すると村上はベンチに向かって「リプレー検証」を要請。これによりロドリゲスがベースを踏んでいなかったことがわかり、検証が成功したのだった。

こういう4番がいること。これがヤクルトの最大の武器である。特に昨年のあの一件から、村上は阪神戦に異常な執念を見せる。少なくとも、僕にはそう見えてきた。矢野自身もネットでの反応に傷つき、多少なりとも今年限りでの退任に影響したのでは…とさえ思っていた。

村上は1年前のことだから、スッキリしているだろうけど、勝負の場面での集中力は高まるばかり。そんなことを考えながら、試合を追っていたら、延長11回にナント3本目のアーチをぶち込んだ。恐るべし男、村上宗隆。この先の優勝争いは1年越しの矢野VS村上、ここがポイントになってくる。(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「かわいさ余って」)

阪神対ヤクルト ヤクルトに逆転負け、がっくりと整列する矢野監督(撮影・前岡正明)
阪神対ヤクルト ヤクルトに逆転負け、がっくりと整列する矢野監督(撮影・前岡正明)