本拠地甲子園で広島に3連勝。これで最終決着。マジックが「5」になった。もう行く手を遮るものはない。さあ、岡田彰布の胴上げが待っている。

阪神岡田彰布監督(2023年9月10日)
阪神岡田彰布監督(2023年9月10日)

1カ月ほど前だった。岡田はこんなことを言った。「ホンマな、たいしたもんよ。みんなが力をつけて、自分のやるべきことを理解して、ホンマな、強くなったよな」。自分のことではない。選手を褒めた。選手の成長を認めた。それを言葉で表した。こんなこと、昔はなかった。

球界関係者、球団OBから、よく声をかけられた。前回の監督時。「勝てば監督の力。負ければ選手の力不足。岡田らしいけど、さすがに選手を褒めてやらんと。岡田にそれとなく言うとけ」。そんなこと、いちマスコミの人間に言われても…と思ったが、実際、そういう声は多かった。

実際のところ、オレが、オレがばかりではない。たたえたり、褒めたりもする。ただ、それが素直に出ない。特に大勢に囲まれたら、テレが出る。そういう形で2008年を最後に、監督を退いた。

15年後。監督カムバックになり、2022年の秋季キャンプから、岡田の変化は顕著だった。今年の春のキャンプで鳥谷と対談。その時にルーキー森下の話題になった。「ホンマ、エエよな。強く振れるのがエエよ」と認めたあと「少なくとも鳥谷の1年目よりはエエわ」と鳥谷をずっこけさせた。このあとフォローも忘れない。「オレの1年目より上やろ」。

こういうことはシーズンに入っても続いた。佐藤輝にはきつく接してきたが、「それはアイツには力があるから。だから歯がゆいんよ」と言葉の裏で期待感を感じさせた。こういうことがスポーツ新聞の岡田の語録に出れば、それを読んだ本人はどう感じるか。

8月、9月になって、ますます岡田の変化は明らかになっていく。過去にはなかったコメントを平気で、テレもなく口にするようになった。村上に対して「どうしても防御率が気になるからな。タイトル、チャンスがあれば取らせてやりたいし」。こういうことを、トラ番に囲まれた中で口にする監督ではなかった。

セーブのタイトルがかかる岩崎にしてもそうだ。セーブのシチュエーションができあがったところで、岩崎をマウンドに上げる。そういう形を作った前の投手をも「よく走者を出したわ」と笑いながらねぎらい、気持ちを和ませた。

9月10日、10勝目がかかった伊藤将が「最後まで投げさせてください」と直訴してきたことを明かした。これまでの岡田なら「却下」だったと思う。それが「なら自分で決めてこい」とチャンスで打席に立たせ、その後もマウンドに送った。

まあ、余裕があるからの動きだったのだが、公に褒めることを苦手としてきた岡田。「な、言うたやろ。このチームは経験を積んでいくにしたがって、強くなっていく。オレにはわかる。その通りになったやんか」と、選手たちを心から認めた。

常に脇にいるヘッドコーチの平田も明かした。「監督? それは変わりましたよ」と笑った。例えばゲームの中で、大事な場面に打席に立った投手が送りバントを失敗した。ベンチに緊張が走る。これまでなら岡田の荒々しい言葉が出たからだ。「コーチは何しとるんや。明日からずっとバント練習、させとけ」。それが違った。「まあエエ。ここからしっかり投げろ!」に変わった。

懸念材料にあげられていた年齢のギャップ。「そんなもん、なんとも思ってない」。65歳の監督は好々爺(や)の風情を漂わせている。【内匠宏幸】(敬称略)

阪神対広島 10勝目をあげた伊藤将(右)と笑顔でハイタッチをする岡田監督(2023年9月10日)
阪神対広島 10勝目をあげた伊藤将(右)と笑顔でハイタッチをする岡田監督(2023年9月10日)