前監督の矢野は選手やコーチを名前で呼んだりしていた。矢野流の親しみの表現で、それはそれでほっこりしたものだった。
岡田彰布はまったく正反対。「名前で呼べるのは親だけやろ」と極端な理由で、一線を画してきた。ただし岡田も66歳。性格は穏やかになり、やさしさが前に出始めた。だから今季、外国人選手のミエセスには「ミエちゃん」と呼び、後のビールかけで例の「ミエちゃん、今日は主役ちゃうよ」の名セリフが生まれた。
そんな岡田の変化に最も驚いたのがヘッドコーチの平田である。「丸くなったもんね」と、岡田の言葉にびっくりした事があった。シーズンが始まった頃は、ベンチの中で、そのコーチを呼ぶ時、「おい、安藤」としていたのが夏以降、呼び方が変わった。「おい、安ちゃん」とちゃん付けになった。これにはベンチにいる他のコーチが目を合わせて、首をかしげたという。
僕はそんなことをすぐに聞きたがる。安ちゃんの意味は? と問うと、岡田はえっという表情で「意識してなかった。いつの間にか、そう呼んでいたんやな」。裏返せば、コーチとしての仕事ぶりを岡田が認めたということ。岡田の場合、ちゃん付けは信頼の表現。そうとらえてもいい。
「そらそうよ。投手コーチの2人がホンマ、いい仕事をしてくれたもんな」。こう明かしていたのが印象的だった。投手コーチの安藤と久保田の2人。ともに2005年、前回のリーグ優勝の立役者だった。それもあり、岡田は再登板にあたり、球団とコーチ人選を検討した時、投手コーチを自ら指名。この2人に対するこだわりを示した。
ゲーム中、ベンチの監督の横に立つのが安藤で、ブルペンで対応するのが久保田。「安ちゃんはオレの意図をわかるようになってくれている」と岡田は明かす。ピンチの時、タイミングをみてマウンドに足を運ぶ。岡田が指示する前に構えはできていた。先発投手にはコントロールの重要性を説いた。現役時代、外角低めを自分の生命線にしてきたからこそのアドバイスは効き目があった。
ブルペンの久保田は岡田によってクローザー、セットアッパーの道をたどった。持ち前のタフさに精神面の強さは際立っていた。それをコーチになって、ブルペン陣に伝授する。
コーチ2人制がうまく機能した今季の投手陣。これが機能不全に陥れば、ベンチとブルペンの配置転換。さらに1、2軍入れ替えとかになるのだが、いまのところ阪神にはその心配はない。
2024年シーズンは連覇に挑む重要な1年になる。相手球団のターゲットとなる阪神だけに、研究もされる。今年のようにうまくいくかどうか。そんなに甘くはない世界なだけに、すべてのコーチ陣のコーチングが重要なファクターになる。特に投手陣。阪神のストロングポイントはすべての球団が認めている。だからこそ、投手陣はさらなる進化が必要となる。そこを岡田は「安ちゃん」と久保田に託す。
「そら同じよ。投手を含めた守りの野球。2024年もそら同じよ」とタイガースの野球を明確にする岡田である。そこには「安ちゃん」がいる。何か安心感がそこにある。【内匠宏幸】(敬称略)




