<イースタンリーグ:巨人4-6ロッテ>◇29日◇ジャイアンツ球場


捕手として現役21年間で通算出場試合1527。引退後はコーチとして4球団で計21年間(うち1年間は編成担当)、合わせて42年間をプロ野球で生きてきた田村藤夫氏(61)が、ロッテ高卒3年目・藤原恭大外野手(21=大阪桐蔭)のプレーを詳しくリポートする。

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ロッテの2軍はホーム球場での取材が制限されており、今季はなかなか見ることができなかった。今回はビジターで見る機会に恵まれ、1番左翼の藤原に注目した。昨年終盤に1軍に定着し、このままレギュラーをつかみそうに思えたが、今季は開幕1軍も、4月下旬に2軍に落ちてからはファームで実戦を積む日々。

まず、気になった点から解説したい。2点負けている7回表無死二塁での第4打席。藤原は大竹と対し、初球は外角ストレートでストライク。カウント0-1からフォークボールだと思うが、抜いた変化球を左飛に打ち取られた。

野球に詳しいファンならばあらためて指摘するまでもないが、最低でも1死三塁の形をつくることが藤原には求められた。本人にもその気持ちはあったとは感じるが、スイングにはその意思は見えなかった。右翼方向へ引っ張ろうとしての凡打ではなく、何となく打ってしまった左飛という印象を受けた。

一、二塁間を狙ったゴロならば、かなりの高い確率で二塁走者を進めることができる。それは藤原もよく理解しているはずだ。それを、試合の中で自分で工夫して実践できるか、それが1番打者藤原のこの場面での役割だった。1軍で同じ状況ならば、藤原にはバントのサインが出てもおかしくない。このファームの試合で、バントのサインは出ていなかったと思うが、そうだとしても、そこで何とか進塁させることを考えることができるかどうか。ベンチはそこをじっくり観察している。

わかりやすい例で言うなら「セーフティーバントをする」、「右方向へ引っ張れるボールを投げさせるため、外角球はカットして粘る」などが考えられる。頭の中で整理して打席に入っていれば、カウント0-1から、あの変化球を左方向への飛球にはならないと私は感じる。

ベンチは藤原がどういう狙いを持って打席に入り、チャンス拡大のためにどういうバッティングをするのか、その一点に注目している。そこで自分が試されていると藤原に自覚があったのか、ということだ。

1番打者として、初回の第1打席は四球で出塁。第2打席は3回1死一塁でカウント2-1のバッティングカウントでエンドランのサインに一、二塁間へ内角ストレートを引っ張り、1死一、三塁とチャンスを広げている。初回で先頭打者として出塁すること、序盤にエンドランを確実に決めること、1番打者の役割を理解した2打席だったと感じた。

そして第4打席は試合終盤に入り2点差という難しい局面。1点を返せば1点差に迫る場面で、チームに貢献するバッティングができるか。藤原の応用が試される打席だった。

5打席の中で、工夫が見られない内容をあえて指摘する背景には、やはり走攻守で大いなる可能性を示しているからだ。この試合でも、5回1死での第3打席で三遊間にヒットで出塁すると、俊足を生かした。次打者の初球前に、先発左腕の山本は一塁走者藤原にけん制球を投げた。

ポイントは、左腕山本は右足を大きく上げてけん制球を投げたことだ。私は藤原がいつスタートを切るか注目していたが、山本の右足が動いた瞬間にスタートを切っている。山本は一塁にけん制球を投げ、一塁手が二塁に転送したが藤原はセーフ。記録は盗塁。

第1打席は四球で出塁して無死一塁、第2打席は1死一塁でヒットを放ち1死一、三塁。2度出塁し、いずれも走れる状況で盗塁をしなかった。その上でこの場面で山本の右足が動いた瞬間にスタートを切っていることを考えると、2度の出塁で山本のけん制について何らかの傾向をつかみ、それを判断材料にした可能性がある。

この試合で山本は大きく右足を上げたけん制をしていた。そこから素早いけん制はないと藤原が判断し、大きく足を上げることを計算に入れ、動いた瞬間にスタートを切れば、一塁→二塁に転送されたとしても、自分の足なら二塁を奪えると、想定して走った可能性がある。

現役時代の私は足は速くなかったため、盗塁について細かい解説は専門外と言える。バッテリーコーチだったため、よく2軍の左投手には大きく足を上げるけん制は直すように話してきた。それは、アウトになってもいいと割り切った時の俊足ランナーは、左投手の方がスタートが切りやすいというケースがあるからだ。

この場面のように1点負けている中盤5回。1死一塁が1死二塁になれば同点になる可能性は一気に高まる。それゆえに、藤原のような俊足ランナーは挟まれることを恐れず、山本の右足に集中して大胆にスタートを切ったとも言える。

2度の出塁の中での観察力、そして状況を見極め、たとえけん制で挟まれたとしても、転送される間に二塁に到達できると判断してスタートした決断力、これらは非常にいい。ただし、厳密には藤原の走者としての能力に、山本のけん制での技術的課題を加味し、相対的に判断すべきことになる。

私の中では、左腕では阿波野がけん制では非常に巧みだったと記憶している。わざと大きく足を上げてけん制すると走者に思わせ、打者に投げる、そういうテクニックを駆使していた。走者はけん制が来ると思うからスタートが切れない。これは高等テクニックで、そういうせめぎ合いの中で、走者は投手のけん制の傾向を必死に探り、スタートを切る判断材料にしようとしていた。

走塁において突き詰めて考えた上で走っているとすれば、同様にバッティングにおいても突き詰めて考え、自分がその場面でやるべきことをしっかり整理して打席に入ってもらいたい。1軍定着はそうした細かい作業をひとつずつクリアした先に見えてくるものだ。そしてクリアした後は、チームの勝利に直結するプレーがおのずとできるようになり、それが藤原の1軍定着の決め手となる。(日刊スポーツ評論家)