田村藤夫氏(62)がDeNA2軍の練習試合を取材した。試合前の1軍主力のフリーバッティング中に、象徴的なシーンがあった。

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1つの現象面だけを捉えて、2軍選手を批判することはしたくない。なるべく言葉を添え、私の考える「向上心」について触れたい。

沖縄・宜野湾ではDeNA2軍対沖縄電力の練習試合が組まれた。午前10時過ぎから試合前のフリー打撃が始まる。この日、1軍と2軍が球場を入れ替えたため、2軍が宜野湾で練習試合、1軍は嘉手納で練習というスケジュールになっていた。

宜野湾ではソト、オースティン、宮崎、牧がフリー打撃を行っていた。セ・リーグでは抜群の破壊力を持つ右のスラッガーが並んだ。ソト、オースティンの外国人選手に負けじと、宮崎も素晴らしい打球を左翼へ飛ばしている。コロナ感染から回復した牧も、右方向へ快音を響かせている。昨年大卒ルーキーで大ブレークした右の強打者だ。4人のフリー打撃は見ていて壮観だった。

私はずっと気にしていた。2軍の選手はこの4選手のフリー打撃を見ているのかと。ベンチを見ると、2年目小深田と、もう1人が座って見ている。しかし、残りの選手が見当たらない。チームのスタッフに聞くとベンチ裏のロッカールームで食事中だった。

2軍の選手は、両外国人を含めた1軍主力のフリー打撃を見るべきだなと率直に感じた。見たいと思わないのかな、とも感じた。確かに、試合前の練習が終わり、それぞれ準備の時間がある。食事も大切。食事を済ませ打ち合わせもあるだろう。私も2軍コーチを務めてきたので、そうしたタイムスケジュールはおおよそ理解はできる。チームは違えど、そう大差はないだろう。

そうした経験を踏まえた時、私はこう考える。今日はソト、オースティン、それに宮崎、牧のフリーが最後に組まれている。こんなチャンスはない。見たい。こう感じてほしい。そして、時間をやりくりしてでも、見ることをすすめたい。

打撃ケージ後ろには大勢のスタッフがいて、彼らのスイングを間近で見て、打球を見上げていた。2軍の選手も立派なプロ野球選手だが、間近で1軍主力のフリーバッティングは、なかなか見る機会はない。

近くで見ることで、タイミングの取り方、スイングの軌道、ボールへのバットの入り方、打球の角度、ステップの位置、打球音、打球の伸び方、など多くのことを近くで感じることができる。

間近で感じる-。これは本当に大切なことだ。捕手だった私は強打者のバッティングを誰よりも近くで体感してきた。落合さん、門田さん、ブーマー、清原、秋山。こんな打球音なのか、こういうバットの出方をするのか、タイミングの取り方はこんな感じか。

それが、私のプロ野球人生で明確に何かの助けになったかと聞かれれば、即答はできない。間近で受けた感覚、イメージが残像としてあるだけで、だから何だと言われれば、胸を張って答えることはできない。

ただ、知ろうとする姿勢はいつも持つべきだ。経験者として後輩にはそう助言できる。オースティンを見ておこう、ソトの打球はどんなかな、宮崎さんの左翼への打球はどんな伸びをするんだろう。こういう興味、関心が上達の初手に来る。だから、見た方がいいと私は強く感じた。

小深田は第1打席は左飛、第2打席は四球、第3打席は内角真っすぐを見逃し三振。私が昨年からイースタンで見てきた印象では、どうやら内角打ちに課題を持っているようだ。第2、第3打席で、内角真っすぐに腰を引き見送る場面があった。その見逃し方から、私の経験上、内角が不得手だと感じた。

牧は第2打席でカウント0-1から、内角真っすぐを引っ張り、打球はわずかにファウルとなったが、しっかり対応していた。是非小深田には参考にしてもらいたい。小深田もバッティングカウントで内角真っすぐを投げられたが、腰がピクッと反応して見逃した。牧と同じように反応できれば、相手バッテリーはそうそう内角は攻められない。だが、腰を引いて見逃せば、ヒントを与えてしまう。

左の小深田が、右の牧のバッティングを参考にしているか、それは分からない。だが、しっかり見ていた小深田には、自分の内角打ちと、牧の内角球への対応に、どれだけの違いがあったか、おそらく気付いているだろう。そこから、内角球克服への原動力、ヒントが出てくることを願いたい。

4選手のフリー打撃を、沖縄電力の選手はベンチからみんなでじっくり見ていた。プロのバッティングをこんな特等席で見るチャンスは逃せない。そういう気持ちになることが、上達の最初に来ると感じる。

しっかり見ろとか、時間の使い方が悪いとか、そういう典型的な苦言は呈したくない。見たい、感じたい、というフラットな気持ちを大切にしてほしい。たとえ、2軍首脳陣が見学の指示を出しても、本人に興味がなければ、ただ見て終わりになってしまう。

自然と見たいな、という気持ちになる大切さを、伝えたい。自発的にそうなることが理想。そして、今日は見逃したとしても焦ることはない。遅すぎることはないのだから。(日刊スポーツ評論家)