【132】<ファームリポート>

<イースタン春季教育リーグ:日本ハム5-3西武>◇12日◇鎌ケ谷


日本ハムの高卒5年目・田宮裕涼(ゆあ)捕手(22=成田)がプロで生き抜く術について考えさせられた。

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WBCを見てひしひしと感じる。バッターは打つことがすべて。この分かりきったことが、あらためていかに大切か、胸に迫ってくる。守りが、とか、走塁が、とか、野手の要素は多岐にわたるが、シンプルに考えれば、すべてを踏まえて初手にくるのは、打つことに尽きる。

世界最高峰の野球の国際大会で野手の必須条件を考えさせられ、鎌ケ谷に足を運び1人の選手に着目した。田宮はこの日、3番捕手でスタメン出場。3打数1安打だった。

第1打席は粘ったものの、最後は見逃しの三振に倒れる。第2打席はワンボールのバッティングカウントから、内角の厳しいボールを打って捕邪飛。第3打席はピッチャーの頭を越えたショート内野安打。3打数1安打という内容だった。

まず、捕手であることを度外視して、打つことに特化して指摘すれば、もっとバッティングを磨いてほしい。見逃し三振も捕邪飛も、田宮が打席で粘ろうとした姿勢や、早めのカウントからストライクを打ちに行った積極性は、十分に理解できる。

特に捕邪飛について言えば、カウント1-0の打者有利の状況で、まっすぐに絞っていたから厳しい内角のボールに手を出したのだと思う。仕留めに行ったのなら、難しいボールであってもしっかりヒットゾーンに運ぶ技術がなければ、本当の意味での勝負はできない。見ていて、紙一重での打ち損じという印象は受けなかった。まだあのコースを打ち返す技術的な裏付けが足りないと感じた。

ずいぶん手厳しいことを指摘するが、これは田宮が肝に銘じてもらいたいからの苦言だと受け止めてもらいたい。

田宮は捕手以外にも、内野も守れて、外野もこなせる。そして足もある。第3打席では、一塁走者でヒットエンドランがかかり、左前打で三塁まで進塁している。際どいタイミングだったが、左前打で三塁を陥れるその走塁センス、判断力、ベースランニング時の加速力、スライディングの確かさは、いいものを持っている。誰しもが認める走力だ。

投手以外、ほぼどこでも守れて、足もある。言うことないように一見すると感じるかもしれない。しかし、私がこの試合を見ての感想は、果たして田宮はどこのポジションで勝負していくのだろう、というちょっとした疑問だった。言い方はきつくなるが”田宮は捕手もできて内外野も守れる選手”との立ち位置に見える。

ソフトバンクの栗原は、捕手としてプロ入りしているが、右翼を守った時期もあり、そして今は三塁も守れるまでになっている。そして、栗原がいれば、首脳陣は捕手を2人体制で試合に臨むことができる。栗原のユーティリティーさへの信頼の証しだからだ。そして、その信頼の根底にあるのは、打力にある。

打つ栗原は、どこでも守れることを付加価値として、野手の層が厚いソフトバンクでも、なくてはならない選手として、そのゆるぎない立ち位置を確立している。

田宮は同じ右投げ左打ち。田宮だって、そうなる可能性はある。そのためには、打つしかない。シンプルに考えて、今よりもはるかに打つしかない。そうでなければ、”捕手もできてどこでも守れる”という評価から抜けられない。

この日、捕手としての基本的な動きに、特段の課題は見られなかった。バッテリーを組んだピッチャーがサイドスローでワンバウンド投球がなく、残念ながらブロッキングの動きは確認できなかった。キャッチングは違和感はなく、配球もうまく緩急を使いながら打者に狙い球を絞らせない工夫も感じられた。

強いて言えば、イニング間のセカンドスローでは、自分のタイミングでステップを踏み、ボールを握り替えていたが、実戦ではもっと素早く、とっさの動きが求められる。そうした意識がどこまであるのか、走者がスタートを切った時の動きも確認したかった。

捕手は特殊ポジションであり、打てる捕手が理想であるとするならば、打率2割5分に満たなくても、ディフェンス面がしっかりしていれば、十分に正捕手にチャレンジする資格はある。内外野も守れて、足もある田宮は打力があれば、はるかに他の選手よりも多くのチャンスをつかめる。

当然と言えばそれまでだが、田宮は打力を上げることが他の何よりも大切になるんだと、しっかり足元を見詰め、勝負のプロ5年目に臨んでほしい。(日刊スポーツ評論家)