栃木工(栃木)の増田尊内野手(3年)は、最後まで声を張り続けた。「キャプテンとしてプレーで引っ張りたかった」。17日、宇都宮工との2回戦、結果奮わず8回表の守備から途中交代した。「チームが勝つことが全て。交代の時も『全力でやってこい』と声を掛けました」。今春の県大会で準Vした県立の雄は本気で甲子園を目指したが、思いは通じず、初戦で姿を消した。

増田は昨年6月、練習試合で左足前十字靱帯(じんたい)を断裂した。激痛が走り「終わったなと思いました」。10カ月にも及ぶリハビリの間、病院の個室は部員であふれかえった。「悔しい部分もあったが、焦らず治すことだけを最優先にしました」。その当時を母の晴代さんは「まったく下を向かなかった。逆に救われました」と驚いた様子で振り返った。「私に悔しい表情は見せない。クールです」と息子を語る。しかし「言葉がすんなりと他人に伝わるんです」。中学時代には生徒会長も務めたという。

増田は「ケガをして自分に矢印を向けて考えることができた。マイナスになったことはない」。すべてをプラスに考えた。最後の大会は3打数無安打に終わったが「やれることはやったので、悔いは一切ない」と言いきった。「本気になってやるのはこれが最後。高校野球は、かけがえのないモノになった。キャプテンとして、大切な仲間たちと3年間できてよかったです」と涙をこらえ真っすぐ前を見た。

久しぶりに鳴いたセミが、高校球児に早すぎる夏の終わりを告げた。【佐藤勝亮】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

宇都宮工対栃木工 2回表栃木工無死、栃木工・増田は三振に倒れる(撮影・佐藤勝亮)
宇都宮工対栃木工 2回表栃木工無死、栃木工・増田は三振に倒れる(撮影・佐藤勝亮)