ドラフト候補左腕の横浜隼人・佐藤一磨投手(3年)は7月20日、小田急線から降りられなかった。

その日、3回戦で自分たちを破った日大藤沢が、大和スタジアムで4回戦を戦っていた。3年生で応援に行こうと決めていた。旧知の相手エースにも「応援に行くよ」と約束していた。日大藤沢のチームカラーのピンクのTシャツを着た仲間もいた。でも佐藤は最寄り駅で降りようとしたのに、足が動かなかった。

「自分が情けないです。素直になれなくて」と回想し、188センチの大きな体を縮める。悔しかった。甲子園に行けなかったのも悔しい。それ以上に「自分が投げた試合で負けたのが、悔しかったです」ときっぱり言う。しばらく食事ものどを通らないほど、悔しかったという。

仲間からは「打たれて負けたんだからいいよ」と慰められた。それでも佐藤は「秋も春も夏もつぶしている」とエースの責任を一身に背負った。着実にレベルアップしてきたからこそ、見合った結果が出ないことが悔しかった。

1年前の秋には、まだ直球は130キロ台中盤を超えるくらいだった。冬を越えると、スピードガンに「140」が表示されるように。それでもまだ練習試合を視察したスカウト陣は「ちょっと硬いかな。ドラフト? うーん…」という声が多かった。

それが、気温が上がるごとに142、143…と球速表示も上がる。「力を抜いて投げる感覚が分かったのが一番です」と言う。夏の日大藤沢戦では自己最速148キロをマークした。「投げているというより、ボールが吹っ飛んでいく感覚になりました」と己の変化を表現する。

フォームは独特だ。上半身主導で、リリースポイントも高い。動画サイトを眺めて「自分のフォームが変だな、というのは分かります」と笑う。「不器用なんで」と付け足した。1つ1つの動作を大切にフォームを固めてきた。「ブルペンではフォームのことしか考えていません」というほど熱心に取り組んできた。

気がつけば、周囲からの視線が増えた。プロ志望届の提出後、9球団から調査書が届いた(10月7日時点)。「最初は下位か育成の候補かなと思っていたけれど、多分そこまで残っていない」と話すスカウトもいるなど、希少な大型左腕に対するプロの評価は上がってきているようだ。

「絶対に何かを得られる進路だから」とドラフト指名を熱望し、練習を続けている。「もしプロに入れたら、自分は一番下です。謙虚に浮かれることなく、練習の数では他の人に負けないように」としながら「でも、バッターに対しては上から目線で」と強調した。

もうすぐ、その大きな体にまとうユニホームと、仲間たちが着るTシャツの色が決まる。【金子真仁】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)