今年もNPB入りを目指す選手たちにとって、運命の日がやってきた。昨年のドラフト前日、話を聞かせてもらったのが、19年ドラフト2位で阪神に入団した井上広大外野手(19)だった。

はい上がることを知っている。高校時代からスラッガーとして名をはせたが、3年センバツでは現ヤクルトの奥川恭伸投手(19)擁する星稜と対戦し、奥川から4打数2三振と完敗。3年時の春季大会では打撃の不調に陥り、打順も中軸ら下位打線に降格。チームも準々決勝で敗れた。当時の井上の下馬評はさまざま。ドラフト上位とも、そうではないとも。

自分の打撃を確立させた夏は、再び4番に座り、大阪予選から甲子園決勝までの13試合で7本塁打を記録。甲子園決勝で再戦した奥川から3ランを放つなどし、対応力と確実性が格段に向上。見違えた姿には「自分で評価を上げていった」とNPBスカウトも称賛していた。

季節が過ぎた秋、人生を左右する、そんな特別な日を前に井上は、はい上がりの精神を口にした。引き合いに出したのは、球界のレジェンド・イチロー氏。「イチローさんは4位で入った。活躍を見ていたら1位のイメージがあるけど、原点は4位。やるべきことをやっていたからあの年齢までやれている。順位は関係ないです」。よどみのない口調だった。

1年がたった今。16日のヤクルト戦では、高卒新人野手して球団初となる甲子園初打席でプロ初安打初打点を記録。やるべきことをこなさなければ、先の道は見えないと知っている。弱肉強食の世界で、たくましく道を切り開いている。【望月千草】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

19年10月17日、阪神2位指名を受け仲間とともに笑顔でガッツポーズを見せる履正社・井上
19年10月17日、阪神2位指名を受け仲間とともに笑顔でガッツポーズを見せる履正社・井上