“武庫総の奇跡”だ。春夏通じ甲子園出場のない武庫荘総合(兵庫)の斉藤汰直(たいち)投手(2年)は全国的には無名だが、これまでに日米8球団のスカウトが視察した右腕だ。

日米8球団のスカウトが素材の将来性を評価する武庫荘総合・斉藤汰直(たいち)投手
日米8球団のスカウトが素材の将来性を評価する武庫荘総合・斉藤汰直(たいち)投手

クセのない柔らなフォームから最速144キロを投じる好素材。私学全盛の中、21年、普通の公立校のエースが注目されそうだ。

硬式で投手を本格的に初めて1年弱で、バックネット裏にNPBのスカウトを集結させた。「自分は下手くそだと思っています。目標はプロ野球選手ですけど、今は実力を伸ばすだけと思ってやっています」。宝塚中では軟式野球部に所属し、地区大会突破が精いっぱい。「自分に自信がなかったというのもありますが、公立から私学を倒したかったので」。私立からの誘いもあったが、自宅から自転車で30分の武庫荘総合に進学。ポテンシャルの高さは入学直後から際立った。監督歴30年超の植田茂樹監督(56)は「今までにない素材。体が大きいのに持て余さず(投球に)安定感がある」と驚き、「これは故障させたらあかんと。すぐにでも投げさせたかったけど、我慢しました」。肘の柔らかさ、バランス、クセのないフォーム、各所に目を見張った。

指揮官は「斉藤育成プラン」を立て、故障防止のためあえて野手でスタートさせた。投手として本格化な練習は1年秋から。体幹の強化、肩甲骨などの柔軟性を磨くトレーニングに注力し、まずは基盤作りから始めた。斉藤の向上心も周囲の期待値に比例した。「体幹が弱かった。投手で一番大切なことだと思ってパワーアップしたかった」。1年冬、両親に下半身強化の必要性を説く“プレゼン”を決行。ベルト式の加圧トレーニング器具を勝ち取り、入学時は「130キロ出るかどうか」だった球速は140キロを超えるまでに成長した。2年からは“早朝トレ”も実施。毎朝5時30分に起床し、自転車で7時には学校へ。「うまくなると信じて」走り込みやウエートトレーニングが日課となった。

努力は裏切らない。20年夏の代替大会は主に抑えで登板。その頃から徐々に「武庫荘総合にいい投手がいる」と評判が立ち始めた。本格デビューとなった秋の地区大会では3球団が視察。県大会3回戦の育英戦に9回11安打8失点で敗れたが、評判が評判を呼び、その後の練習試合には、立て続けにスカウトが訪れた。メジャーでも活躍した田口壮のオリックス入団時の担当スカウトで、現在は武庫荘総合で投手コーチを務める元阪急、オリックスの谷村智啓氏(73)も「ドラフトにかかってもおかしくない」と認めるほどだ。

斉藤は自分で選んだことは最後までとことんやりきるタイプ。「チームとしては甲子園で校歌を歌いたい。個人としては球速150キロの目標を達成して、チームを勝たせるピッチングがエースとして必要になると思う」と道筋を立てる。球春到来とともに、その名がさらに広まりそうだ。【望月千草】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

日米8球団のスカウトが素材の将来性を評価する武庫荘総合・斉藤汰直(たいち)投手
日米8球団のスカウトが素材の将来性を評価する武庫荘総合・斉藤汰直(たいち)投手

◆斉藤汰直(さいとう・たいち)2003年(平15)12月7日生まれ、兵庫県宝塚市出身。小浜小1年時にポルテで野球を始め、兵庫川西タイガースなどで投手としてプレー。宝塚中では軟式野球部に所属。182センチ、85キロ。右投げ右打ち。