米野球殿堂は4日(日本時間5日)、現代(1980年以降)の時代委員会での投票結果を発表し、通算493本塁打のフレッド・マグリフ氏(59)を満票(16票)で殿堂入りメンバーに選出した。一方で、通算最多762本塁打のバリー・ボンズ氏(58)、歴代最多サイ・ヤング賞7度のロジャー・クレメンス氏(60)は4票未満で落選した。落選した2人は、現役時代に薬物使用疑惑があったためとみられる。MLB史上最高成績を残した投打の2選手だけに、米国内でも波紋を呼んでいる。

ボンズ氏とクレメンス氏は今年1月、全米野球記者協会の投票で10年間落選し続けたため、候補者としての資格を失った。だが、2人は年々得票率を上げており、最終年はボンズ氏が66%、クレメンス氏が65・2%だった。記者投票では殿堂入り規定の75%には満たなかったが、初めて候補入りした時代委員会では当選、または当選に近い数字を得るとみられていた。

時代委員会はグレッグ・マダックス氏、フランク・トーマス氏ら殿堂入りした名選手と、レッドソックス元GMのテオ・エプスタイン氏ら球界幹部、ベテラン野球記者の16人で構成される。マダックス氏、トーマス氏らは、ボンズ氏、クレメンス氏と同じ時代にプレーしている。

同委員会は毎年、選考対象が変わる。現代(1980年以降)の選手は、次回対象となるのは2025年で、その次が28年。「現代の監督、経営者、審判」は23、26、29年、「クラシック年代」は24、27、30年と3年周期で対象が変化する。

落選結果に米メディア「ジ・アスレチック」のスターク記者は「まるで終身刑のように見える」「薬物使用者が既に何人殿堂入りしているか。5人か10人か」「90年前に最初のメンバーを表彰する額ギャラリーができたとき、創設者が思い描いたのとは全く違う殿堂になる。つまり、この殿堂から通算本塁打王(ボンズ)がいなくなる。歴代のサイ・ヤング賞王(クレメンス)がいなくなるということ。本当にそんな殿堂でいいのだろうか」と記した。

当選したマグリフ氏は、細身の体で本塁打王を2度獲得した。90年代ブレーブスの黄金期を支え、16人の委員から満票を得た。現役時代は、レギュラーとなった当初の88~92年の5年間(打率2割8分3厘、出塁率3割9分3厘、長打率5割3分1厘)と、全盛期となった93~02年の10年間(打率2割9分、出塁率3割7分3厘、長打率5割6厘)を比較すると、ほとんど同じ打撃成績だった。

だが、MLB全体でのマグリフ氏の打撃成績の位置付けは、2つの期間で大きく変わる。シーズンの本塁打は、88~92年の5年間で5度ともトップ5入りしていたが、93~02年は10年で2度だけ。本塁打率は先の5年間では5度のトップ5入りも、後の10年間では1度も入っていない。マグリフ氏の本塁打数は、どの年も10本台から30本代で推移しているのだが、周りの打者が本塁打を急激に増やした様子が映し出されている。そして、ボンズ氏らが急激に体を大きくしたのと対照的に、マグリフ氏は終始スリムな体形だった。

マグリフ氏は、全米野球記者協会の投票では、最終年の2019年にマークした39・8%が最多得票だった。今回は満票。もちろん、打撃成績も殿堂入りにふさわしい数字ではあるが、最も薬物使用疑惑から縁遠い候補だったことが、時代委員会からの満票選出につながったとも言えそうだ。【斎藤直樹】

ロジャー・クレメンス氏(2014年4月2日)
ロジャー・クレメンス氏(2014年4月2日)