全国の若手指導者を招いて高校野球のシーズンオフに開かれる、日本高野連主催の研修会「甲子園塾」は29回目を終えた。

受講者は、著名な監督らが担う特別講師と2泊3日で寝食をともにする。みな熱心で、見るもの、聞くものすべて持ち帰ろうという姿勢には心打たれた。

今年の特別講師にはU18日本代表監督に就任したばかりの元日大三監督・小倉全由氏(66)もいた。若手の先生たちからすれば、雲の上のような存在だ。

湯沢(秋田)の奈良省吾監督(28)も小倉氏を目標としている1人。日大三の監督を勇退すると知った昨冬から、余計に憧れを募らせた。今回、県高野連から指名を受けて、あまりのタイミングに驚いたという。書籍やメディアで予習した上で、関西にやってきた。千載一遇のチャンスと、グラウンドで積極的に質問する姿が目立った。

初日の夜。奈良監督は思い切って、小倉氏の部屋をノックした。「ご迷惑だということは承知で、悩みを直接ぶつけさせていただきました。アドバイスをたくさんいただきました」と感激しながら振り返った。

2人きりの野球談義は1時間以上におよんだ。選手が成長するためにはどうしたらいいか。小倉氏は「俺は恵まれていたから」と謙遜しながら、持論を惜しみなく語った。勝利への不安、殻を破るためのアプローチ、試合でサインを出す覚悟。すべてが金言として、秋田の公立校を率いる青年監督の胸に刻まれた。

第2代塾長の元星稜監督・山下智茂氏(78)は「先生の先生」として第1回から参加してきた。元箕島監督の故・尾藤公氏とともに甲子園塾を立ち上げた。接してきた受講者の中から、実に20人ほどが甲子園出場を果たしている。今回で塾長としては最後になるが、惜しむように他の特別講師の指導に耳を傾け、細かくメモをとっていた。そこには、教える側も、教えられる側もなかった。

「尾藤魂を忘れずに。指導は、愛がないとダメだよ」。山下は毎回、そう口にしてきた。最後、未来を担う先生たちに「これからの高校野球をよろしく」と言い残した。培われてきた野球論、そして熱意が、世代をまたいで受け継がれていく。野球人たちの思いに、胸が熱くなった。【アマ野球担当 柏原誠】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)