おっ。新庄みたいやんか。思わず声が出てしまった。5回に中谷将大が見せたダイビング・キャッチ。DeNAロペスが右中間に放った飛球にダッシュ。最後は飛び込んで捕球した。これは本物のダイビング・キャッチだ。

新庄とはもちろん、あの人のことだ。新庄剛志。85年、吉田義男が率いて日本一に輝き、03年に闘将・星野仙一のリーダーシップでリーグ制覇するまでの18年間。その間、勝てなかった阪神でもっとも輝いた選手の1人が新庄だ。

99年に見せた「敬遠打ち」に代表される思い切りのいい打撃もよかったが、なんと言っても守備が光った。強肩、俊足。そしてダイブ。普通のフライをなぜかジャンプして取るプレーも見せた。記録より記憶に残る選手だろう。

中谷はその新庄と同じ福岡育ちだ。そしてプロ入りに関しても新庄とほんの少しだけ“縁”がある。中谷の担当スカウトはかつて内野手で鳴らした田中秀太だ。「秀太」の登録名で知られる。現在も九州担当として、梅野隆太郎、横田慎太郎らの獲得を成功させている。

あえて秀太と書くが、彼は現役時代、新庄とともにプレーした。自主トレもいっしょに行った。「あの人はすごい。全部がすごい人ですよ」。新庄について、そんな話をしたことがある。どこがすごいとか細かく言えないところが新庄という人らしいな、と思った気もする。

そして秀太がスカウトとして初めて獲得した選手が10年ドラフト3位の中谷だった。それを記念し、秀太自身が最初につけていた背番号60を中谷が受け継いでいる。

ダイブもあったが2回にはゴロをはじくミスもあり、打席では4打数で無安打。さらに走者のある場面で3度まわったが2三振を含む凡退に終わった。敗戦を受け、好捕ぐらいでは喜べないと試合後は「何もないです」。

それでもいいダイブを見たので秀太に連絡した。「きょうは見てないですけど。守備はいいんだけどね。とにかくもっと打ってほしいよ。本当に。背番号が悪いんかな…」。そんな話だった。

外野守備走塁コーチ・筒井壮はこう言った。「ダイブは全力で行ってましたね。はじいた打球はイレギュラーしていたんですよ。よく反応したと思います。でも送球がね。三塁が間に合わないと決めつけ送球に“殺意”がなかった。そこですかね」。

17年には20本塁打をマーク。今季も5日広島戦(マツダスタジアム)で代打逆転弾を放っている。中谷が打ってくれれば…。そう思っているのはファンだけではない。(敬称略)

2006年オールスター第2戦 全パ対全セ 4回表1死、中堅への打球に横っ飛びし好捕した新庄剛志(2006・07・23)
2006年オールスター第2戦 全パ対全セ 4回表1死、中堅への打球に横っ飛びし好捕した新庄剛志(2006・07・23)